機能性ディスペプシアとは、消化器系になんの異常もないのに胃やみぞおちのあたりに腹部膨満感、胃もたれ、灼熱感のような嫌な感覚があることをいう。
機能性ディスペプシアの病院でのおおかたの治療方針としては、食生活を含む生活習慣の見直しと症状に合わせた薬の服用となる。その他、定期的に検査を行い、消化器系組織の異常の有無や程度、別の疾患との鑑別などを注意深く行っていくことも重要となるだろう。
今回はそのような機能性ディスペプシアと診断された方に対しての刺絡の症例だ。西洋医学的なアプローチの他に、東洋医学を駆使した鍼灸治療院ならでは見立てとアプローチをしていく必要がある。
まずは自律神経の調整を行っていく。胃腸症状に関しては、副交感神経が過緊張すると胃腸が動きすぎて弊害が出る事があるし、交感神経が過緊張になると便秘になったり消化吸収がうまくいかなくなる。どちらもほどほどがよくて、長期的にどちらかが優位になりっぱなしがよくない。自律神経は交感神経、副交感神経のメリハリが重要だ。
自律神経が乱れる一番の原因が「ストレスを伴うライフイベント」だ。これはある意味便利な言葉で、例えば仕事関係、対人関係、お金の事、家族の事など。生きていく上で人は必ず大なり小なりストレスを受けるがそのすべてはその方のライフイベントに起因する。
その中で、中長期的で尚且つ大きなストレスとなる要因があると自律神経は乱れがちになり、それが続くと何らかの不定愁訴が現れてくる。これは、鍼灸治療どうのこうのよりも患者様自身の問題だったりする。何か思い当たる節があるならば、なるべく「中長期的にかかっているわりと大きなストレス」をどうにか処理もしくは軽減しないと症状回復が遅くなってしまう。
ただ、永続的な効果ではないが自律神経に働きかけて副交感神経、交感神経のスイッチを切り替えて尚且つなだらかにする方法はある。いくつか方法はあるが、今回行ったのが刺絡療法だ。
刺絡は、瘀血を出すのが最大の目的のように思っている方も多いかもしれないが、これは自律神経に働きかけるのが一番の目的だ。胃腸に対応している急所が背中と腹にあり、その部分に刺絡を行う。裏も表も正中線上は自律神経にアクセスしやすい急所となる。さらに体表内臓反射といって、身体の表面のある部分を刺激すると内臓に影響を与える事が出来る部位が身体には存在する。それが東洋医学における経絡の概念ともつながってくる。なので冒頭で、「東洋医学的なアプローチ」とは言ったものの、考え方としては人体の仕組み、化学、反射に根拠を置いた上での鍼を使ったアプローチなのだ。私は「気」の流れとかそういう理屈は使わない。
さて実際の施術だが鍼灸による全身調整のあと、胃兪、脾兪、小腸兪、大腸兪、など消化器系の急所の他、腹部の急所にも刺絡を行った。今後も施術を継続していくが、刺絡後の夜は毎回よく眠れる、遅い時間に油っぽいものや生ものなどを食べなければ胃腸の調子が良い、その時は治ったように感じると仰って下さった。
背部の刺絡と瘀血