肩が痛い時は、肩以外にも神経、血管、筋肉、筋膜などの走行を鑑みて然るべき箇所にアプローして緩める必要がある。その中でも、よく手を使う方の場合は「手のひらの硬さ」を評価する必要がある。指を一本一本反らせていくと、硬くてあまり反らない指がある。その指を支配している神経領域内に肩の痛みの箇所があるならば、指のストレッチと手のひらをほぐして緩める事で肩の症状が和らぐ可能性が高い。無論、その他にも前腕や上腕の筋硬結部位や首肩背中の張りなども診てほぐしていく必要がある事は言うまでもない。
なぜ指や手のひらを緩めると肩の症状が緩和するのか?それは、肩から指が筋肉、筋膜などの運動器系の組織で繋がっているからだ。いわばゴム紐のようなもの。ゴムに少しだけ亀裂が入っている部分が損傷部位だとすると、そこがくっくつように局所にアプローチするのも一つだろう。しかし、組織の再生には時間がかかる。今すぐにある程度の可動域をもたらすには、硬くなっている部位をほぐして「ゆとり」を作らねばならない。ゆとりが生まれた分、傷口が広がらないよう動きをサポートしてくれるという考え方。同じ筋肉、筋膜、神経の走行上ならばこの方法は通用しやすい。
ただ、傷んだ部分をカバーできるだけの「ゆとり」がなければそれを超えた動きには当然、痛みが伴う。問題はどこから「ゆとり」を捻出するかだ。それには、いわゆる押すと「痛気持ちいい」という筋硬結部位を一つ一つ丹念に探してほぐしていく方法が良い。
先程「ゆとり」という言葉を使ったが、不良債権や赤字を補填するために「貯金」を下ろす、金策を図るのという考えにも似ている。
痛みなど不足の事態が起きてからそのようなアプローチを行う事で症状改善、緩和ができる場合もあるが、本当ならば常日頃から「ゆとり」を作る、「貯金」を貯めておく事が大切なのだ。そうすればいざという時に危機を回避しやすいだろう。具体的には、筋骨格器の組織をお風呂などでよく温める事、関節に付随する筋肉や腱をストレッチで伸ばす事だ。筋肉や腱がストレッチで伸ばされると、周辺の血管も同時に伸ばされるため血管の柔軟性も上がり、より血の巡りが良くなるし特に下肢の場合は動脈硬化の予防にもなる。これを毎日コンスタントに行うのだ。筋トレと違って、お風呂での温めとストレッチは毎日行っても負担にはならない。
時には、めんどくさいと思う事もあるだろう。だが、ストレッチで少しずつ可動域が広がってくると嬉しく感じるものだ。ストレッチは言うならば脳との対話でもある。本当はもっと可動域があるけれど、「これ以上の伸長を許すと組織が痛むかもしれない」と脳が判断してリミッターが働き可動域が制限されるのだ。だがこれを毎日限界近くまで攻めていると「大丈夫そうだな」と脳が判断して、徐々にリミッターが解除されて可動域が広がってくる。その「対話」も楽しみの一つだ。
そして、上で少しだけお金の事に触れたが、身体もお金も「今さえ良ければいい」という使い方では良くない。皆さんも身体とお金、とりわけ健康面に関しては人生の先達から「いずれわかるよ」とか「後で困るぞ」と言われた事はないだろうか?僕は仕事柄、年配の方とお話をさせていただく機会が多いが、身体とお金は大切にしろと多くの方が実体験から教えて下さる。
それを受けて思うが、健康とお金はある程度は貯金できる。よって、未来のために今できる事を堅実に行い、身を律し、慎ましく暮らしていく事が肝要だと思う。
…肩の痛みから随分と壮大な話になってしまったが、肩周辺の痛みがある方は一度、指のストレッチをしてみてもらいたい。もしも指によって硬さが違う場合は、そこの柔軟性が足りなくて離れた箇所に影響を与えている可能性がある事を覚えておいてほしい。