腰痛と肩こり。

腰の痛みを訴える患者さんに対しては、痛む動きと連動した筋肉や筋膜、急所を緩めることで症状が緩和することが多い。それを行う部位は概ね腰部周辺だ。時には、神経や筋膜、筋肉、経絡などのつながりで、症状改善のヒントが下肢にある事もある。腰と下肢のつながりは、一般の方でもなんとなく想像がつくのではないだろうか。

しかしまた時として腰痛の原因が腰や下肢ではなく、首肩にあるという場合もある。特に腰痛の施術をしていて、最後の最後にどうしても運動時痛が1部取り切れない時に、首肩の筋肉をほぐすと先程まで気になってた症状が消失するということが多い。

これは一体どういう現象なのか?

腰と首の共通点はその両方が脊柱の1部であると言うことだ。脊柱は頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個合わせて24個の椎骨からなる。脊椎は、重力などの自重を解消し、ある程度の衝撃から脊髄と体幹を守るため緩やかなs字カーブを形成している。しかし普段から前かがみの時間が長かったり、中腰姿勢が多かったりすると、本来あるべきはずの腰と首のそりが少なくなってしまう。往々にして、腰の反りが少なくなると、首の反りも少なくなる。逆もまた然りである。普段中腰姿勢で腰が辛い方は、首肩もまた筋肉が硬い傾向にある。そして普段首肩が辛い方は、腰も連動してとても筋肉が硬くなっている。腰痛と首肩こりの相関性には脊柱のs字カーブが関係しており、これはおそらく自然なs字カーブを形成する背骨が持つ、ある種の防衛本能や反射のようなものなのではないかと僕は考えている。

なので、腰痛症状をお持ちの患者さんはかなりの確率で首肩の筋肉が硬く、ストレートネックになっている可能性も高いのだ。

よって、腰痛症状に対して腰周りや下肢の施術を行っても症状改善が見られない場合は、必然的に次に見るべき施術ポイントは首肩となる。

腰痛症状の中でなかなか解消しにくい運動時痛の1つに、仰向けで両膝を立てた状態での「へそ上げの動き」がある。

この動きに関与する筋肉は、踏ん張るための足の筋肉、へそを上に上げるための腰部周辺及びお腹の奥のインナーマッスルだ。これらをほぐしても症状が改善されない場合は、首肩の筋硬結を緩めると症状が解消することがある。なぜこの方法が効果的なのか?忘れてはならないのは、そもそも腰を反らさないことには仰向けでへそを上に上げることができないと言うことだ。

そして、腰を反らすためには脊柱の「緩み」すなわちある程度の「遊び」がないと腰をそらすことができない。では脊柱において、どこの緩みが足りないのかと言うと、言わずもがな頸椎である。よって、頸椎の緩みを妨げる原因となっている。首、肩周辺の筋肉を和らげ、腰椎にかかる負担を解消することで腰を後ろにそらしやすくなると言う結果につながるのだ。

運動時痛を改善するには痛む部位だけを見ていてはだめで、全身の筋肉の張り具合や何らかの体の特徴、どこに「痛みの秩序」があるのかと言うことを包括的に考えていく必要があると僕は思う。