睡眠学者の柳沢 正史先生の話は興味深かった。
柳沢先生曰く、哺乳類動物や虫などの節足動物、軟体動物、線虫など、脳があるいわゆる中枢神経系を持つ生き物はみんな眠る。しかし末梢神経しか持たず、脳を含めた中枢神経系を持たないクラゲも眠るという事が最近の研究で明らかになったそうで、睡眠に関しては現代でもまだわかっていないとことだらけだそうだ。それと同時に、我々が思っている睡眠に関する認識は誤解も多いという。
例えば、「ナポレオンは3時間しか寝てないから大丈夫」とか、「惰眠をむさぼらず働け」など、こんな言葉を聞いたことがないだろうか?
実は、日本人は先進諸国と比べて平均睡眠時間が短い。
中国9時間2分 アメリカ8時間51分 イタリア8時間33分 フランス8時間33分 オーストラリア8時間32分 イギリス8時間28分 韓国7時間51分 日本7時間22分
そして残念なことに、平均睡眠時間が低ければ低い程、一人当たりの労働生産性も落ちる。
※各国の睡眠時間と生産性(2020)ウィジンクス、日本生産性本部による調査より抜粋
なので、「寝ないで働いている人が正義」とか、「朝までお酒を飲んで寝ないで仕事に行く」みたいなのは基本的には間違っている。そうゆうのをやればやるほどパフォーマンスは低下する。
とはいえ、「日本は先進諸国においても国内総生産が世界2位(現在は3位)と高いではないか、現代の日本社会を築いてきたのは睡眠時間を潰してでも戦後、働いてきた人たちのお陰だからじゃないのか?」と思う人もいるだろう。
例えば戦国時代の戦において、これから攻めてくる大勢の敵兵たちをさえぎるために穴を掘ったり、高い塀をこしらえたりみたいなのは文字通り「寝ないで」必死にやらねばなるまい。しかし、役割分担というものがあり、塀を作る人間の他に作戦指揮を執る人間もいる。この作戦指揮を執る人間が徹夜で塀など作っていては戦に負けてしまうわけで、勝つための最高の判断というパフォーマンスを十分発揮できるように、心身と脳を休ませねばならない。
なので、先人たちが寝ないで働いて会社を、いや、日本を大きくしてきたというのは、その寝てない人の他に絶対にブレーンがいたはずで、ある程度澄み切って冷えた状態の脳があったからこそのクールな決断とクレバーな指示のお陰で今があるのではないかと僕は思う。なのでそのブレーンはある程度寝てたと思う(笑)それか、「しんどいっすねー…」とか言いながらも要領よく睡眠はある程度取っていたのではないか。
次に、ショートスリーパーに関して書いていく。
ショートスリーパーとは、上記のナポレオンの如く、3時間とか2時間など短い睡眠時間でも日中、苦を感じることなく生活できる人の事を言う。もっともナポレオンが本当にそうであったかは分からないが…。この「ショートスリーパー」という概念、短時間の睡眠でも全然大丈夫というのは基本的にはあり得ないと柳沢先生は言う。ただ、まれに本当にショートスリーパーの人も一応いることはいるらしい。
要は「その人に合った最適な睡眠時間」が大事なのだ。だいたいの人の最適な睡眠時間は6~9時間くらいなのだろうが、3時間と極端に短い人が稀にいるというだけの事らしい。
自分の最適な睡眠時間の知り方だが、まず以下に記す3つの項目を見てもらいたい。
①平日と休日で睡眠時間が2時間以上違う。
②寝つきがとても良く1分で寝れる。
③どこでも寝れる。
この中で1つでも当てはまるなら、あなたは睡眠不足だ。柳沢先生曰く、睡眠不足も立派な病気であり正式名称は「行動誘発性睡眠不足症候群」。覚醒を続けると良くないと分かっていても寝ないで覚醒状態を維持しているのは依存症の一種だという。
上記の3つの項目で、「こんなのいつもの事で、当たり前じゃないか」と思う人もいるだろうが実は、昼間に眠くなるのは異常で、睡眠が足りてない証拠なのだ。「昼間に眠くなるのは当たり前」と思っているのは日本人だけらしい(笑)
さて、それでは理想的な睡眠時間の割り出し方だが、仮に昨日7時間寝たとして昼間に眠かったとしよう。それならば次の夜は30分多く、すなわち7時間30分寝てみるのだ。それでも次の日の昼間にだるかったり眠いならばもう30分と、睡眠時間を30分ずつ増やしていく。その中で一番快適に一日を過ごせたという時の睡眠時間があなたにもっともあった理想的な睡眠時間なのだ。
3つめに「睡眠のゴールデンタイム」という言葉を皆さん聞いた事があるだろうか?
睡眠におけるゴールデンタイムは実際にはなく、大切なのは「質」と「量」だと柳沢先生はいう。量の部分に関しては上記の、理想的な睡眠時間の項で書いた通りだ。
質に関していうと「環境」がとても重要となる。まず、日本の家庭における夜の室内照度は諸外国と比べて明るすぎるらしい。夜、夜中でも煌々と白熱灯をつけて昼間と変わらない照度を維持して、勉強でも仕事でも何時までもできる環境を整えているという、いかにも根性と忍耐の日本人がやりそうなことではある。
強い光が目に入ると概日リズムを形成するメラトニンという松果体で作られるホルモンが出なくなり、体内時計が遅れがちになる。時間の経過と共に夜のリビングはだんだんと暗くしていくのがよい。
寝る時は部屋を暗くして、夏の暑いさなかならば冷房をつけて快適な温度で寝るのが良い。エアコンをつけると体がだるくなるという方もいるが、暑苦しいのも寒いのもよくないので調整が必要だ。寝室の湿度や温度、必要ならば照度も。それらを計測器で常に可視化して、自分にとっての最適な数値を把握しておくとよいだろう。
最後に、睡眠の意味について。
睡眠は、完全なる脳の休息というわけではないと柳沢先生はいう。一番深い眠りと言われるノンレム睡眠中でも、実は脳の活動量は覚醒時と同じくらい脳が活性化していて、むしろ覚醒時よりも活動量が多いくらいだそうだ。
「脳」というコンピューターは決してどんな時もオフにはならない。睡眠時、外界から切り離されて五感を通じた感覚情報の通信と処理は休んでいるにしても、オフラインで動いている。
睡眠中に脳は、記憶の整理、今までの経験の理解、洞察、文字にできないようなスポーツなどの技能記憶の整理などの情報処理を行っている。特に運動などの技能取得は寝ないと上達しない。
若いころ、自動車学校に短期集中で入学して毎日強制的に何時間も車の実習を受けた。その日のうちに何時間車に乗ろうができないものは絶対に出来なかった。ところが次の日にもう一度車に乗ってみると、いとも簡単に坂道発進や縦列駐車などができたことを覚えている。
人生も同じかもしれない。
色々な事を抱えて八方塞がりで何をやっても上手くいかないならそうゆう時は寝た方がよい。その間、脳内で情報処理と理解が進み、起きた時に自ずと最良の答えが見つかるかもしれないし、嘘のようにすんなり対処できるようになっているかもしれない。
自分なりに思った事をまとめると、
①ちゃんと寝ないと全てのパフォーマンスが下がり、収入も減る。
②「寝ないで頑張る」は決していいことではない。
③寝る時は温度、湿度などを整えて最高の環境で寝る。
④人生に行き詰まったら寝る。