可動域制限と脳のリミッター解除。

例えば50肩。これは加齢により関節包が癒着を起こして痛みや運動制限が起きる。時間の経過と共に痛みは和らぐが、関節が動かしにくくなる。もうひとつ例えば骨折後の関節拘縮。骨折した箇所は通常ギプス固定をする。その際に、ずっと動かしてないと関節が固まってしまい動かなくなる。

これらに共通することは、以前は動いていた関節が、本来の動きが出来なくなってしまっているということだ。これを、「可動域制限」という。なぜ可動域制限が起きたかを分析し適切なアプローチをせねばならない。

関節拘縮が起きているならば拘縮を取るリハビリを。組織の損傷による可動域制限ならば痛みの軽減と動きのフォローを。軟部組織の癒着があるならばそれをはがすためのリハビリを。という形でそれぞれ原因に対して行う内容は少し違ってくる。

これらの可動域制限は筋肉骨格関節などの運動器だけではなく、実は「脳」も大きく関係している。本当はもう少し動かすことができるのだけれど、脳が「怖い」「ここらへんでやめておいてくれ」と制限をかけているのだ。事実、寝ている時に他動運動を行うと、覚醒時の他動運動よりも可動範囲は上がる。※個人差あり。

これはストレッチにもいえることだ。最初は身体が硬くて全然動かないし広がらないが何回もやっているうちに慣れてきて広がるようになってくる。筋や腱が切れてしまったから伸びるわけではない。「慣れる」という言葉を使ったが、どこを慣らしているかというと、その運動部位の他に「脳」も慣らしているのだ。というより、説得に近いものがあるかもしれない。「ここまでいけるよ、この前いけたからね。ほら大丈夫だったでしょ?怖くないよ」という感じで脳に働きかけてリミッターを解除していく。

胡散臭く思えるかもしれないが、立位体前屈が苦手で床に手がつかない方の前で、フニャフニャ~~ユラユラ~~とした風になびくこんにゃくのような様子で軽く膝を曲げてでもいいから床にべったり手を突く動作を数回見せる。これを見ただけで「脳のリミッター」が解除されて立位体前屈の記録が伸びる方もいる。これは個人差もある。疑い深い方や、おれは絶対口車に乗らないぞという方はカチンカチンになってさらに記録が悪くなる方もいる。そういう方はそのレクリエーションを不快に感じていて心が開いていないのでそもそも不適格だ。でも不思議なことにそのような疑り深く、抵抗を示している方でも脳のリミッターが外れることもある。本人の意識とは裏腹に、脳が反応して身体にフィードバックがなされているということだ。

このように、脳に働きかけるという手法は最近の世の中でも様々なツールを通して用いられている。本人は意識していない一瞬に情報を脳に焼き付けようとするサブリミナルなどが有名だ。身体が柔らかくなって怪我しにくくなるなどのような本人にとって有益な脳への働きかけならば大歓迎だが、無意味に購買意欲を掻き立てる広告、行動や思想を制限したり誘導するようなそんな悪意のある脳への働きかけは御免である。