無血刺絡の症例。「ぎっくり背中」という言葉がある。これは「ぎっくり腰」ほど世に広まっている言葉ではなく経験した患者様が「ぎっくり腰の背中バージョンのように辛い」という事から派生した、いわば造語だ。なってみれば誰もが解るだろう。このぎっくり背中だが、発症してしまったという方は割と多い。主な発生機序は、子供を抱っこした瞬間、ダンベルを持ち上げた瞬間、子供が走って飛びついてきたのを受け止めた瞬間など、急に背中の筋肉に強い負荷がかかると起こりやすい。以前にもぎっくり背中の症例をこの症例集においても書いたことがあると思う。
さて今回はそのような突発的な強い負荷が掛ったわけではなく、長電話により腕から肩、背中の筋肉及び筋膜が緊張してふとした瞬間背中の筋膜に傷がついて痛む、筋筋膜由来のぎっくり背中の症例だ。
神経、血管、筋膜、経絡は遠位と近位でつながっている。筋肉も筋膜を介して繋がっている。関節運動にともなう筋肉の相互作用といった意味では関節運動も繋がっているといえるであろう。
なので、一見背中とは関係なさそうな前腕、肘関節、上腕、肩関節、頸椎などの部位もよく診て適切な箇所を緩めていく必要があるのだ。
さて、局所以外の繋がりを意識して離れた真の原因部位を緩める必要があると上述してきたが、今症例の施術としては局所の無血刺絡が一番功を成した(笑)それが5割。残りの2割は前腕、2割は腋窩、1割は頚部、すなわち局所から離れた遠位部へのアプローチであった。これらを緩めていくことで、息を吸うと痛むという症状と、腕のぶん回し運動が楽になった。