インフルエンザウイルスは、エンベローブという油の膜を纏ったRNAです。
RNAとはいうならば設計図です。
インフルエンザウイルスは自分で増殖するのではありません。
宿主の細胞の増殖能をジャックして、RNAを基に自分のコピーを大量に作らせるのです。
インフルエンザウイルスが纏うエンベローブは油なので、洗剤やアルコールなどで簡単に壊せます。
膜が破れるとインフルエンザウイルスは失活します。
感染ルートは主に飛沫で、鼻や目、喉の粘膜から侵入します。
うがい、手洗いの他、触ったものや飛沫が気になるところはアルコール消毒しておくのが良いでしょう。
なぜインフルエンザは症状が強いのか
インフルエンザウイルスは感染後、8~10時間で爆発的に増えます。
一つの細胞から数千~数万のウイルスを増殖させるのです。
各地で大量にばらまかれたウイルスに対して、サイトカインが発動します。
サイトカインは免疫能の一種です。
ウイルスを見つける、仲間を呼ぶ、体温を上げて戦いやすい環境を整える、免疫細胞をパワーアップさせるなどの役割があります。
戦いを有利にするための反応とはいえサイトカイン、特に炎症性サイトカインは痛みの神経を刺激したり炎症物質放出にも関与します。
全身でウイルスが急速且爆発的に増加しているため、サイトカインは至る所で炎症を起こし、免疫細胞達は死闘を繰り広げます。
それすなわち、全身で炎症が起きているということです。
そのため、高い熱、強い関節痛、筋肉痛、頭痛などが起きるのです。
免疫細胞は基本的にターゲットとなるウイルスにしか攻撃しません。
ですが、ウイルスに集中砲火を浴びせると周囲の細胞も巻き添えを喰らって傷つくこともあります。これをバイスタンダーダメージと言います。
タミフルとゾフルーザ
インフルエンザの治療はなんといっても薬です。
タミフルは増殖したウイルスが細胞内から出るのを防ぎ、ゾフルーザはウイルスが増える仕組み自体を止めます。
薬が吸収されて作用した時点でウイルス増殖が止まるため、これらの薬はなるべく早く使用せねばなりません。
ですが、もうすでに増殖して細胞外に出たウイルスはタミフルやゾルフーザでもどうにもできません。
そのため、全身に散らばったウイルスとの戦いは必須であり、戦えば熱も出るし関節も痛くなるのです。
その症状を抑えるために消炎鎮痛剤などが用いられます。
インフルエンザの時の消炎鎮痛剤
強い発熱や関節痛にはロキソニンやボルタレンが効きそうなものですが、処方されるのはカロナールです。
カロナールは妊婦さんや子供でも服用可能な解熱薬です。
解熱、鎮痛作用はロキソニンが100とするとカロナールは50くらいのパワーです。
高熱に全身の痛みや炎症、すぐにでもロキソニンを飲みたくなりますが、基本的に処方されません。
その理由は「脳症に陥るリスク」が僅かでもあるからです。
脳症とは
脳の入り口には血液脳関門という強固なバリアがあります。
血液脳関門は不純な物質が脳に入らないよう徹底して選別している脳の関所です。
そのためウイルス、菌のみならず、薬や栄養であったとしてもおいそれと脳内に入る事は出来ないのです。
しかし何らかの原因で血液脳関門の機能が弱り、炎症物質やウイルス、サイトカインを脳に通してしまい脳内で炎症が起きる事を「脳症」と言います。
脳症とロキソニン
ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤は、以下の特徴があります。
①熱を下げ過ぎる。
②プロスタグランジンを抑制する。
③血流が悪くなる。
熱を下げ過ぎると免疫細胞が力を発揮しにくくなり、ウイルス駆逐に時間がかかります。
プロスタグランジンを押えると確かに痛みは和らぎますが、神経や血管が保護されにくくなります。
これらの作用が血液脳関門の機能を弱らせて脳症を引き起こす要因となるのです。
サイトカインストーム
サイトカインストームも脳症を引き起こす要因の一つです。
上述の通り、インフルエンザは全身でウイルスが爆増する感染症です。
そして全身で爆増するウイルスに対して、身体はサイトカインを発動して炎症を起こすと共に、免疫細胞の働きを助けます。
しかし、ウイルスの量が多すぎたり、免疫システムに異常を来たしていたりするとサイトカインが出過ぎる場合があります。
サイトカインが出過ぎて全身に強すぎる炎症をもたらす事をサイトカインストームと言います。
この「強すぎる炎症」が血液脳関門にダメージを与えて弱らせ、脳症を引き起こす可能性があるのです。
炎症は敵か味方か
サイトカインは炎症を司っています。
炎症が起きる理由は勿論、身体を守るためです。
その理由を以下に記します。
「血管透過性の上昇」
血管を広げて血管透過性を上げる事で、免疫細胞が集中して血管内外に移動しやすくなります。
「腫れ」
血管透過性が上がる事で、血管から組織液が漏れ出る事で組織が浮腫んで腫れます。
「疼痛」
血管と神経を保護するプロスタグランジンが出るためです。プロスタグランジンは痛みの閾値を下げる(痛みに敏感になる)性質があります。あと、浮腫みにより神経が圧迫を受ける事も要因の一つです。
「機能障害」
プロスタグランジンによる疼痛閾値低下、局所の腫れなどにより身体を動かしたくても動かしにくくなります。言い換えると、回復に努めるため安静にせざるを得ない状況を創っているのです。
要は、免疫細胞を動きやすくする事、身体を動かさないで安静にさせる事が炎症の役割なのです。
薬で炎症を止めてもいいのか?
風邪症状が辛い時、本当は薬は使わずサイトカインと免疫細胞に全てお任せすればいいのでしょうか?
上述の通り、彼らは彼らなりに治癒の計画と算段を立てているのです。
消炎鎮痛剤を使うと免疫力が低下して治癒が遅くなるのではないか?なるべく薬は飲まないで耐えた方が良いのではないか?と、お思いになるでしょう。
これに関しては「辛かったら即、薬を飲む事」です。
風邪症状が辛い時は薬をすぐ飲んだ方がいい理由
理由は二つあります。
一つは、辛い風邪症状が長引くと回復力が弱るからです。
我慢して苦痛に耐えていると、体力、食欲が低下したり、睡眠が浅くなります。
そんな状態では体の回復力もますます衰え、風邪が長引きます。
二つ目は、消炎鎮痛剤による免疫系のシステム妨害はごく一部のみだからです。
ウイルス排除のために体は、サイトカイン、プロスタグランジン、ヒスタミン、インターフェロン、TNF-α、IL-1、IL-6、NK細胞、T細胞、マクロファージなどを総動員します。
この中で、ロキソニンが抑えるのは主にプロスタグランジンのみです。
プロスタグランジンが抑制されても、免疫システムの働きはほぼ変わりません。
カロナールにしてもそうです。
カロナールは脳に作用して、少しだけ痛みの感度を下げると共に、体温を少し下げるように働きかける薬です。
免疫には全く関与しません。
ロキソニンもカロナールも解熱作用がありますが、免疫システムは大して影響を受けません。
熱が下がったとしても戦い続ける免疫部隊がちゃんといます。
※但し、小児や免疫系に異常がある方などは薬の種類により、消炎剤の服用が脳症に繋がるリスクがゼロではないため必ず医師の診察と許可が必要であり、自己判断してはいけません。
