刺絡後のふらつきとその夜の睡眠。

鍼治療後に一時的に脳貧血を起こしてふらふらするという方が稀にいる。これは、鍼の刺激により反射的に脳小動脈の収縮を引き起こし脳循環血流量が減少することで発生する。人に依っては、顔面蒼白、冷や汗、悪心、嘔吐、血圧低下、一過性の意識消失などの症状を呈する。「鍼あたり」とも言われたりするが、ふらつきや血圧低下はあっても、失神などひどい症状は当院では見たことがない。しかし、患者様から別の院で治療を受けた際に気を失ったことがあるという話は前に一度聞いた事がある。

なぜこのような事が起きるのかというと、まず一つ目は座位で首回りを刺激すると起きやすい。なぜならば、首には頸動脈洞がありここが働くと血圧が下がってしまい、脳への血流が悪くなるのだ。頸動脈洞反射といって、首周辺を触っているとこの部分が誤作動を起こす可能性があるので注意せねばならない。何より、ふらついて転倒して頭を打ち付けるとか骨折などが一番恐ろしいので、基本的には横向きか仰向けの状態での施術が望ましい。

二つめに、空腹、極度の疲労など全身状態が良くない方も注意が必要だ。若い方などで昼頃や夜の時間に施術を受ける時に血糖値が下がっていて、さらにダイエットをしている関係で慢性的に空腹だったり、栄養が欠乏しているような方はふらふらしやすいし身体も冷えている。その他、水分を摂りすぎている方やこだわりの謎理論に基づく謎サプリメントをよく摂取している方はカッピングを行った際に水泡が起きやすい。そこのところを見抜くのは難しいが、カッピングは長くやらない方が良い。

三つ目に、これは本当に言語同断だが、お酒を飲んだ状態での施術は絶対にだめだ。施術による効果が分かりにくいばかりか、内臓、循環器がいつもとは違う状態なのに外部から刺激を加えるのは危険なのだ。…まあ、実際に私自身も修業時代ホテル出張マッサージのアルバイトをしていた時にお客さんが酔っぱらっている状態でマッサージを施したことが何度もある事はある。会社とお客の狭間で、「酔っぱらっている状態ではだめ」などとは言えず、軽く差し障りのないように施術をしていたことは確かだ。だが、鍼灸治療となると話は別で絶対にだめだ。あと、お酒を飲んでいる状態では、飲めば飲むほどに前頭前野という理性を司る部分が麻痺してくるので、人によってはからんできたり、グダをまいたりといい事は一つもなく、トラブルの原因にもなりかねない。そういう人間は断ったほうが良い。いい施術はできないし、それを許してしまうとなあなあになってしまってよい関係性も築く事はできないし、甘くみられるし、なにより院の風紀が乱れる。

さて、当院では刺絡を受けた後の患者様が少しふらつくと仰る事がある。出血の関係と思われる方もいるかもしれないが、刺絡による出血量はせいぜい30ccほどなので、週に何回も刺絡で瘀血を出していて、さらに生理中で、なおかつよほどの貧血でもない限り血液が足りなくてふらつくという事はない。大抵はお水を飲んで10分も休憩していれば気分もよくなる。

あと、多くの患者様から刺絡をしたその日はなぜかとっても良く眠れるとの言葉を頂く。これは、刺絡の刺激が自律神経に影響を及ぼして副交感神経が優位になっている証拠だ。刺絡はただ瘀血を出すための技ではない。それは刺絡の目的の一つにしか過ぎない。刺絡の本当の目的は自律神経を整えることにある。