夫源病と更年期障害。

「夫源病」という言葉がある。これは医師の石蔵文信さんが名付けた病名だ。著書「妻の病気の9割は夫が作つくる。医師が教える夫源病の治し方」より。

読んで字の如く、奥様の原因不明の症状や病気の原因のほとんどが旦那様にあるというものだ…。全部が全部当てはまるわけではないとは思うが、実際に苦しんでいる方がいることも事実だ。

夫源病の症状は、本態性高血圧症、突発性頭痛、突発性難聴、メニエール病、神経性胃炎、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症、うつ病、自律神経失調症などです。これをみて、「なんだちゃんと病名が付いているものばかりじゃないか、であればしっかりとした原因があるのではないか」と思う方もいるだろう。だが、これらの病気はどれもよく原因がわかっていないものばかりなのだ。

ここで、更年期障害のことも書いていく。更年期障害は、閉経により性ホルモンの急激な減少に伴って様々な症状が出るというもの。ホルモン減少で起こると考えられているが、ホルモンを補うホルモン療法を行っても効果がでない事もあり、原因はいまいち解っていない疾患だ。更年期障害の症状は、ホットフラッシュ、発汗、動悸、めまい、耳鳴り、不眠、頭痛、かたこり、腰痛、関節痛、げり、口の渇き、気分の落ち込み、精神不安定、意欲の低下、記憶力減退など。

こうみてみると、上記の夫源病と更年期障害は症状が似ている部分がたくさんあることがわかる。循環器症状、消化器症状、内耳症状、精神的な症状など。この二つの疾患を引き起こす共通の原因としては、ホルモンの低下、自律神経の乱れ、生活環境の変化、ストレスを伴うライフイベント、モラハラなどの不適切なかかわり方などが私的には考えられる。

まず、ホルモンの低下について。これは、先にも述べたが更年期障害の原因の一説として加齢による急激な女性ホルモン低下というものがある。この女性ホルモンだが、ストレスから心身を守ってくれているバリアの様なものの可能性があるのだ。これはマウスを用いた実験だが、雄と雌のマウスに同じストレスを掛けたところ、雄のマウスだけが心臓の働きが弱まった。つまり雄の方が雌に比べてストレスに弱いという事が解る。次に雌のマウスに女性ホルモンが出なくなるように施しもう一度同じストレスを掛けたら、雄と同じように心臓の働きが弱まったのだ。よく、男よりも女の方が忍耐力があるとか痛みに強いと言われるがその背景には女性ホルモンのストレスへの耐性が関係しているかもしれないという事がこの実験から分かったのだ。なので、女性ホルモンの急激な低下→ストレスに弱くなる→心身共に不調が生じるという構図が浮かび上がると言える。ここで一応書いておくが、女性ホルモンはストレスから身を守るバリアのような働きがあると述べたが、だからといって女性に沢山ストレスがかかる仕事を任せてもいいというわけではない。

2つ目に自律神経の乱れ。じつは上記の様々な症状だが、その多くが自律神経の異常で大抵説明がついてしまう。自律神経はリラックスの神経と緊張状態の神経の二つからなり、身体のほぼ全部の器官に行き渡って支配している。そして自律神経の乱れによるほとんどの症状は「交感神経の害」といって交感神経という緊張状態の神経が優位になり続ける事で引き起こされる。例えば高血圧や動悸、下痢、便秘、頭痛、発汗、肩こり、腰痛、口渇、不眠などは典型的な自律神経症状だ。一応、逆の作用(リラックス)の副交感神経の異常緊張によっても頭痛やだるさ、下痢、徐脈など身体に支障をきたす事もあることを付け加えておく。交感神経は身体を戦闘に適した状態にする、戦いの神経でもある。仕事や闘争などでストレスがかかっている時は優位になり続ける。その時間が多ければ多い程身体に負荷も掛かるのだ。

3つめに生活環境の変化。引っ越し、転勤、部署移動、転職など環境の変化というものは人間ストレスを感じるものだ。恒常性を維持するという機能が身体についているように、今まで生きてこられた環境に変化が加わりそれに慣れるまでは落ち着かないと思う方が多いのではないだろうか。極端な事を言うと、敵の有無、健康や財産、尊厳を確保できるか、長く安全に過ごせるか、これらが確認できるまで真の意味での安息は難しい。それまでは心身が休まらないという方もいるだろう。

また、近しい方の死別、試験、プレッシャーのかかる仕事や発表会などのストレスを伴うライフイベントに直面した時も、それらの前後で心身ともに負担が掛かる。

4つ目に、モラハラ、パワハラなど不適切な関り全般のこと。これは、やっている人もやられている人も自覚が持ちにくいかもしれないがかなりの心身ダメージとなる。「マルトリートメント」という言葉がある。これは幼児虐待、ネグレクトなど親が子供に対して不適切なかかわり方をしているという意をさす。いう事を聞かないからしつけと称して殴る、ける、たたく、食事をあたえない、閉じ込める、辱める、罵倒する、人格否定する、泥酔や浮気など最悪な親の姿を見せるなど。これらのようなマルトリートメントを受け続けると子供の脳は萎縮する場合がある。罵詈雑言を聞きたくないから聴覚野、おぞましいものを見たくないから視覚野、辱めやえぐい記憶を消し去りたいし思い出したくないから記憶に関わる脳領域などがそれぞれ萎縮するのだ。なので、学習や生活面で生きずらさを感じているお子さんの何割かはマルトリートメントが原因といえるのだ。夫源病と更年期障害の原因の一つにマルトリートメントと似たような「不適切な関わり」を日々受けていてそれにより脳領域の萎縮や症状が出ている可能性がある。例えば「記憶力の減退」、「難聴」などがそれにあてはまらないだろうか。その他、原因不明の線維筋痛症など痛みをともなう症状に関しては自分で自分の痛みを感じて、外部から加わる精神的苦痛をマスキングしようとしている一種の防衛反応の可能性もある。

さて、色々な原因を書いていったが、ホルモンの減少ならそれを補うホルモン療法がある。生活環境の変化による体の不調であればその環境に慣れて安全が確保されることが解ればある程度改善されるだろう。自律神経の不調に関しては、鍼灸マッサージ、刺絡などの施術やリラックスを心がけてオンとオフのメリハリをつける事で改善する可能性は高い。「不適切な関り」の場合は、ケースによっては犯罪の可能性もある。然るべきところに相談したのちに粛々と対処していかねばなるまい。トラウマの有無やすでに起きてしまった脳領域における萎縮など、立て直しに大きな苦労を要する場合もあるだろうが、「不適切な関り」から脱却するとこで症状改善につながる可能性は大いにあると思う。

短期的、単発的な症状であれば鍼灸などの施術で追い払う事は出来ると思う。しかし、中期的、長期的と症状が長くなればなるほど、そしてその背景に「いつ終わるか分からない強いストレス」「いつ終わるかわからない不適切な関り」というものが隠れていると症状の改善が難しい。表面に出ている症状を追い払ってもまたすぐに出てくる。あと、「症状が出ていて当たり前」という形になるとこれもよくない。人間にはどんな時でも常に最高の状態をキープするという機能「恒常性の維持機能」が備わっている。なので、何らかの症状が常にあって当たり前でそれがないと逆におかしいというようにインプットされてしまうと治りがより一層悪くなるであろう。

人間は基本的に変化を嫌う生き物である。太古の時代、慣れた土地を離れて別の土地に獲物を求めて遊牧民として狩猟採集をしていた生活から、人類は腰を下ろして根をはり定住するようになった。毎日食うか食われるかの遊牧生活から、農業や牧畜に移行して比較的安定して文明を築いてきた歴史がある。…だからかもしれない。なので、一度生活と命の安全を確保したらそこから離れるのが難しくなる。時間が経てばたつほどに。そして人は慣れてしまうと痛みや苦痛にも慣れてしまい我慢できてしまう。特に日本人は我慢強い。ふつうは我慢できないということでも耐えてしまう方も多いだろう。今すぐ逃げたい、どこか別の場所に行きたい、でも責任があるから、しんどいけど今日まで死なずに生きられた実績が一応ある環境だからここから抜けるのが怖いという方も多いと思う。様々な要因でがんじがらめとなりすぐには行動出来ない方、時間がかかっても行動に移すことが難しい方もいるだろう。でも、少しづつでもいいから1ミリでもいいから症状が改善するよう前向きに動いていけたらいいのではないか。治療、トリートメント、引っ越し、転職、離婚、行政サービスの活用などその方その方にあった何らかの手段があると思う。