かゆみというとアトピー性皮膚炎が思い浮かぶ。アトピーの病因としては、遺伝的素因、免疫学的異常、皮膚バリア機能異常など様々な事が考えられている。痒みの特徴としては、夜間のかゆみ、かゆみ閾値の低下、汗や乾燥、ストレスなど多数の増悪因子、強いかゆみ、痒みに対して過敏になる、抗ヒスタミン薬が効かない、嗜癖的な掻破行為、などがある。
感作とは、繰り返して加わる刺激に対しての反応が徐々に増大していくことをいう。
末梢性感作→皮膚バリア機能障害 炎症や神経線維の組織的変化
中枢性感作→シグナル伝達、転写活性化因子の一つであるSTAT3依存性の脊髄アストロサイト活性が一因である可能性がある。
かゆみの刺激→末梢神経が刺激される→脊髄後角→下位脳幹部(下位脳幹にμ2オピオイド受容体があり、これが刺激されると痒みの原因になる)→視床、視床下部→大脳辺縁系(これらに分布するセロトニン受容体は興奮、覚醒作用を示して痒みを増強する。※軽いかゆみ→不快、強い痒み→イライラ、さらに強いかゆみ→苦痛、抑うつ、痒みがストレッサーとなる)→大脳皮質(かゆみ、ストレスを感じる)
痒みに関わる脳の部位
(痒みの中枢)視床、腕傍核
(感覚の調整、統合)前障
(感情、情動のコントロール)帯状回、海馬、偏桃体、側坐核
(局在、強度)第一次体性感覚野
(掻破の欲求)尾状核、被殻、線条体、淡蒼球
(かゆみの調整)中脳、中脳中心灰白質、腹側被蓋野
(認識、注意)第二次体性感覚
(かゆみの感情、強度)島皮質
(痒みの評価、掻破のコントロール、快感、報酬)前頭葉
(記憶)楔前部
(掻破行動のプランニング)運動前野、一次運動野、補足運動野、小脳
かゆみを起こす物質
ヒスタミン、ロイコトリエンB4、セロトニン、インターロイキン31、トリアーゼ、サブスタンスPなどがC線維を刺激して軸索反射でさらに起痒物質を出す。C線維が脊髄後角に刺激を伝える。
※C線維は炎症反応のある皮膚では神経成長因子(NGF)などによって増殖して神経終末を表皮内に伸長する。なので、かくとさらに痒くなる。これに対してセマフォリン3Aは神経終末の伸長を抑制する。
心因性のかゆみではセロトンやノルアドレナリンが関与している。
セロトニン→痒みを増幅させる。ノルアドレナリン→交感神経優位で分泌される。ふつうは痒みを押えてくれる。が、機序は不明だがノルアドレナリン分泌により痒みをかんじている可能性がある。
アトピーの場合、痒くないのにかいている時もたくさんある。1日のうちにどれくらいかゆくてかいているかを何時に何回とノートにかいてもらう。その後この中でかゆくてかいたのは何回くらい?と聞くとほとんどないとこたえる人もいる。それ以来、かゆくないのにかくのはおかしいと自覚して掻破回数が減少する人もいる。掻破の習慣性、掻破からくる皮膚のダメージなどの障害を認識してかゆみを正確に自覚できると症状が和らぐ例もあるのだ。しかし、セルフモニタリングは逆効果になる事もあるから注意。
ストレスの他に両親との関りも関係があったりする。アトピーで習慣性の掻破行為がみられる患者さんの母親が過干渉で管理的な傾向があったり、父親にプレッシャーを感じているという方もいる。幼少期から培われてきた親とのコミュニケーションの中で掻破の習慣が定着する。不快に感じる時に掻破する癖ができてしまう。完璧主義の方も痒くなりやすい。不安を引き起こす内的な葛藤または生活の出来事に基づく強迫観念、恐怖症などが症状として現れる。これは神経症性ともいえる。強い痒みの症状を持つ患者さんたちはよりよく(理想的に)生きたいと思いながらそのようにできないことに葛藤して自己否定的で皮膚をターゲットとした強迫観念や行為に逃避してしまう。「神経症状態」は教条主義的に育てられたものに多い。管理的な環境に育てられ失敗が許されない状況が、不安を踏み越えて前に進んでいくという事ができないライフスタイルを作ってしまう。痒いからかく→やめたいけどやめれない。これを「強迫行為」という。
参考文献
自覚症状と他覚所見の解離 : かゆみ (jst.go.jp)