66歳 男性 (主訴)慢性50肩と脳へのアプローチ。

主訴と症状。

左肩を動かすと痛い状態が、もう2年も続いているという方です。すなわち慢性50肩です。

50肩とは。

50肩は正式名称、肩関節周囲炎と言います。つまり肩周辺の原因不明の痛みの総称なのです。

50肩の最大の特徴は「自然治癒」です。人によって期間は異なりますが、徐々に良くなっていくものなのです。

「原因不明」と言いますが、50肩は加齢により肩関節を包む関節包の癒着により起きると考えられているのです。それが40代、50代が好発年齢であることから40肩、50肩と呼ばれるのです。

考えられること。

今回の症例においては、なぜ症状が変わらず数年に渡って横ばいなのかがポイントです。

関節包の癒着が強固なのか?繰り返しの負荷が掛っていて、リカバリーと負荷のいたちごっこになっているのか?あるいは適切なアプローチを受けれていないのか?などが考えられます。

施術と治療方針。

まず、肩と腕の硬さを診ます。触ってみるととても硬いです。これは恐らく、動かすと痛いから肩周辺の運動不足になり、血の巡りが悪くなっている状態です。それに対しは、全体をほぐして血流を良くしていきます。

次に具体的にどの動きが一番痛いかを診ていきます。

基本的にどの動きも悪かったですが、特に横から肩を上げる外転という動きが悪かったです。

外転の際に肩が痛む時は、肩以外に前腕も大きく関係しています。前腕部、特に肘の辺りが硬く、明らかな筋硬結部がありました。

ここを押えてもう一度、肩の外転動作をしてもらうと先程より楽に動くようになりました。

しかし、まだ痛みは半分以上ありました。この場合、別の部位を探さねばなりせん。

次に目を付けたのは、腋窩周辺です。腋窩とは腕の付け根、わきの事です。

ここは様々な筋肉が複雑に構成している部位です。その中でも、背中と腕を結ぶ広背筋の付着部に着がとても硬い事に気が付きました。

ここをひたすら時間をかけて少し強めにほぐしていきました。

刺激量について。

強めで時間をかけてほぐすのはいい事なのか?と思う方もいるかもしれません。

今回は、痛みが出てから2年も経過しています。そして痛みがあるがゆえにあまり動かす事が出来ない事で、さらに硬くなっています。

患者様が極度に痛がらないようであれば、ひたすらほぐしていく事が肝要です。

なぜなら、身体は「硬くて当たり前」と認識を持っているので、それを改める必要があるからです。今まで触られたことのない部分、感じた事のない圧痛刺激が加わる事で身体と脳は「肩の不調」を再認識して、治癒のアルゴリズムが再び動き出すのです。

恒常性の維持機能。

身体には恒常性の維持機能(ホメオスタシス)があります。

これは、「いついかなる時も最高の状態を保つ」という身体の働きです。長い間痛くて、動かせなくて当たり前という認識でいるとそれがデフォルトになってしまいます。

すると、身体と脳は「痛み」と「苦痛」を嫌がり、治す事を諦めようとするのです。

身体と脳に気付かせ上書き保存させる。

そのため関連部位に刺激を加えて、局所の感覚を脳と身体に認知させるのです。

痛む外転運動を、外転とリンクした筋硬結部位や急所を押えて痛くない状態で何度も動かすのです。すると、「痛い動きが急所を押える事で痛くなくできた」と脳が認知するのです。

それを何度も繰り返して、ほぐしと運動を行う事で「嘘じゃない」と脳が情報を上書き保存すると治りやすくなるし、症状の戻りも少なくなります。

経過。

1回の施術では完璧には良くなりませんが、痛みは和らぎ可動域は来院時に比べて大分広がりました。その後も継続的に施術を続けることで徐々にできる動きが増えていきました。

「どうせ無理だ」という身体と脳の認識を「痛いけど出来た」そして「痛みなくできた」に書き変えていくのは大切な事です。