瘀血と精神疾患と刺絡。

紀元前の中国で作られ、東洋医学についてのあれこれが書かれた黄帝内経という書物があります。

この黄帝内経は素問、霊枢とあり、これらには「瘀血」やそれを解消する「刺絡」という鍼の治療技法について書かれた箇所があります。それすなわち、当時から瘀血の概念がありそれを刺絡で治するという治療法が盛んに用いられていた事を示しています。

以来、延々と刺絡は治療に用いられ、東洋医学における瘀血と刺絡に関する臨床経験は現代に至るまで約2000年以上に及ぶものと推定されます。

黄帝内経の霊枢には「宛陳なれば則ちこれを除く」とあります。宛陳(うっちん)とはなかなか治りにくい慢性の病の事で、「治りにくい病は血脈から出血させて古血を出して治しなさい」という指示が書かれているのです。

霊枢には瘀血のある部位に対する鍼の刺し方の指南もあります。

絡刺

絡刺とは経穴周辺の浅いところの血脈を刺すものです。すなわち経穴(ツボ)がある表皮上の毛細血管を狙います。これこそが現代の刺絡の形だと解釈されています。

賛刺

瘀血の箇所に浅く早く刺して、早く抜くを数回繰り返す方法です。捻挫や打撲、虫刺されの時などに使う手法です。

豹文刺

瘀血のある箇所の左右前後を挟んで血絡に鍼を刺して経絡の鬱血を取る方法です。

霊枢には、癲狂(てんきょう)についても書かれています。癲狂とは精神状態や意識が正常さを失った時の病状の事です。現代医学ではテンカンや精神最弱にそうすると考えられます。

癲狂の発作の直前には病人が不快な気持ちになり、頭が痛んで重く、上目遣いになりがちで目が赤く充血することもあります。このような時、病人の顔色と表情を観察して病の状況を見ていかねばなりません。この治療には、刺絡を使うと霊枢には書かれています。

小腸、大腸、肺にそれぞれ属して通ずる経絡の血絡から瘀血を出し、顔色がだんだん正常になってきたら止めると言う指示です。

また、癲狂の際に体が反り返って倒れたときには症状が重いと判断できるので、胃、脾、小腸は続く経絡の血絡からの刺絡も念頭に入れるべきとある。

精神的異常をきたしたときには上記のような経絡上の血絡への刺絡が良いと霊枢で述べられているのは、すなわち精神異常は血の異常、瘀血により起きる場合もあると言い換える事ができます。

そして上記の、小腸、大腸、肺、胃、脾に通じる経絡は血液とも関係が深いと同時に、食が関係するのではないかとも考えられます。

飲食物が胃に入り溶かされ、小腸大腸から吸収されて血となり肉となる。血液は全身を巡って肺でガス交換がなされ、古くなった血液は脾臓で壊される。

この過程で、飲食物に不純物が入っていたら消化吸収、運行、交換、解体などの過程で要らぬ負荷が臓器にかかったり、ざまざまな身体の器官に不純物が撒き散らされるとも考えられます。それこそが瘀血と言えるでしょう。

霊枢を見るに、飲食と瘀血ひいては精神異常は関連している可能性があります。よって、鬱や多動、何らかの精神的なトラブルの場合は飲食物を見直してみるのも一つかもしれません。

具体的には、何事も多く摂りすぎない事です。そして、人工甘味料やアルコール、古い油、添加物など人工的に作られたり、薄利多売で手が加えられているものは避ける事が肝要だと思います。

飲食と瘀血に関してはそのうちまとめて書こうと思います。