整骨院では自賠責保険に基づき、事故による怪我の施術を行うことが出来る。交通事故で最も多い怪我は「頚部捻挫」すなわち「むち打ち症」だ。むち打ち症とは、背後から車で突っ込まれた際に大きな衝撃と共に頚が前後に鞭のようにしなる事で頚部を傷めるという怪我だ。その他、急ブレーキでも起きる事がある。
頚部はとても大切な場所だ。なぜなら頸椎の中には脳の四分の一を栄養する椎骨動脈があったり、脊髄のうちの頚髄もあるし、頚髄から枝分かれして上肢を司る末梢神経の根元部分の神経根もある。そのため、頚部を傷めると場合によっては神経を痛めてしまい、それが未来永劫治らなくなってしまうという恐れもあるのだ。これを「後遺症」という。
神経組織は外側の部分が痛む分には治る。時間はかかるが日々、痛んだ部分が修復されていくのだ。しかし、内側の部分は一度切れたり大きく損傷すると治らない。なので頚部の怪我が起きぬよう細心の注意をせねばならない。もしも車に乗っていて鞭打ち症がどうしてもどうしても怖いならば、頸椎カラーというコルセットを保険的な意味で付けておくのはいいかもしれない。※但し運転する場合、首の動きが制限されて支障がでるならつけてはいけない。これをつけておけば前後の動きは半強制的に制限される。理屈的には、前後屈は制限されるが回旋は出来る。なので、左右を向く動きは一応できるはずだ。
むち打ち症に関わらず交通事故によるけがは後遺症になるリスクを秘めている。
なぜならば体重約70キロの人間が、約3トンもの重さの自動車の大いなる力の影響を受けるからだ。直にぶつかられる事は勿論、中に乗っている状態での追突、急ブレーキなども大きな衝撃を受ける。人間の身体は約37兆個の細胞で出来ていて、その細胞の内と外は液体で満たされている。言うなれば人類は小さな水風船の塊のようなものだ。その「小さな水風船の塊」の重さが70キロ、普通自動車の重さが3トンとし、それによる事故が起きた時、人間は自身の体重の42倍もの大きな物質による作用にさらされるのだ。骨、筋、皮膚、血管、神経、内臓、脳などを構成する細胞に、実際はどれくらいの影響が加わっているのか現代の医学では正確には解らないだろう。
そのため、事故の状況、レントゲンやMRIなどの画像所見、皮膚や骨など見ための変化、可動域、本人の自覚症状などを総合的に判断して身体のダメージの程度を推し量るしかないのだ。
なので、実際は痛くて辛いのに事故の状況から「そんなに痛いわけない」と軽い怪我と思われたり、受けれる治療に制限がかかったり、治療を保険会社の方から打ち切られる事もある。
万が一、交通事故により大きな外力を受けて後遺症になるかもしれないとなると、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という機関による調査と、医師による「後遺症診断」が必要になる。医師の診断だけでは後遺症認定はなされない。本当に辛い症状を持つ方が後遺症認定に少しでも通りやすくするためにいくつか留意すべき点がある。
一つ、仮に近所や職場近くの整骨院で施術を受けるとしても、事故後は定期的に整形外科を受診して医師の診察を受ける事。そして普段の施術、つまり整骨院や整形外科のリハビリどちらで交通事故治療を受けるにしてもなるべく毎日通う事。当然ながら辛ければ毎日でも医療機関に通はなくてはならない。
二つ、3カ月は確実にほぼ毎日でも通う事。頚部捻挫、末梢神経の損傷(サンダーランド分類の3度以下)ならば約3カ月以内、遅くとも6カ月以内には組織が修復されて治るはずだ。しかしそれ以上の損傷となると半年以上、いくら時間をかけても治らないという場合もある。なので損傷の程度にもよるが辛い症状があるならば、なるべく毎日でもトリートメントを受けるという、ベストを尽くすに越した事はない。干渉波、低周波などの電気療法は痛んだ末梢神経線維の回復を早める効果が認められている。
三つ、事故の規模。当然、小さな事故よりも大きな事故の方が、大きな損傷を受けたのではないかと誰の目にも映る。
まとめると、事故の規模が大きく、症状が辛すぎる故に回数を重ね長く医療機関を受診しているという事実があるという事。これらが後遺症認定に対して自賠責損害調査事務所による調査と、医師による後遺症診断がスムーズに行われる一助になる可能性がある。