「車酔い」「船酔い」「空酔い」など、文明の発達と共に我々人類は「乗り物酔い」を経験するようになった。さらに現代では「シネマ酔い」「シミュレーター酔い」「宇宙酔い」などの「最先端の酔い」も存在する。
この乗り物酔いの主症状は、ふらつきや浮遊感、平衡障害などでいわゆる眩暈の一種とされている。めまいの原因は様々あるが、前庭覚、視覚、小脳覚、神経覚、体感覚などからなる複数の平衡感覚の認識のずれが生じる事で起きる。人間はいくつかの器官を用いて総合的に平衡具合を判断して認識している。
以前、「探偵ナイトスクープ」というバラエティー番組でひどい船酔いを一瞬で確実に止める方法が紹介されていた。それは、本人に知らせずふいに氷水を陰部と背中に浴びせかけるというものだ。当然、いきなりそんな事をされたら超びっくりする。これをやると心拍数、脈拍ともに跳ね上がり、命を守るために体が最適化されるのか「酔い」は治まるのだ。「自律神経が関与しているのではないか」と現場に同席して自らもその効果を体感した医師が言っていた。
僕が思うに、身体が生命の危機を感じて緊急反応を起こしたことで交感神経系が働き、アドレナリンやノルアドレナリンが副腎髄質から分泌されて「酔い」がマスキングされたのかもしれないと、すなわち、アドレナリンとノルアドレナリンが「船酔い覚まし」に功をなしているのではないかと思っている。無論、船酔いやめまいの器質的な原因がある場合はそれを解消しない事には根本治癒にはならない事は承知の上だ。
しかしアドレナリンが緊急時に身体に及ぼす反応は興味深い。アドレナリンとノルアドレナリンは簡単にいうと「覚醒」に関与する。心停止を蘇生させる時もアドレナリンは使われる。命の危機に比べたら当然「船酔い」は優先順位が低い。
ただ、酔いやめまいに対して氷水を毎回浴びせるわけにはいかないし、循環器に多大な負荷が掛るため危険だし、下手したら暴行罪で訴えられるかもしれない(笑)そのためこれは実用的な方法ではないが、将来もしかしたらアドレナリンを生かした治療法が生まれるかもしれない。