東洋医学的な「血」「瘀血」「血の病理」について。

一般的に「血」という字は「ち」と読むが、東洋医学では「けつ」とよむ。

現代において血は血液といい、血液は赤血球、白血球、血小板、血漿などの成分からなる。全身を栄養する、身体を内側から守る、痛んだ部分を治すなど様々な役割がある。それとは別で、東洋医学的な「血」の概念を学んでおいても決して損ではなく、新たな発見もあるだろう。

「血」の源は飲食物であり、脾胃からもたらされる後天の精から作られる。血の素材は津液と営気であり、肺による呼吸作用が深く関与している。※津液とは体内の水分の総称。営気とは陰性の気で津液を血に変えて血と一緒に体を一日に50回めぐる気のこと。

「血」の働きは営気と共に脈中を流れて四肢や臓器を潤してその働きをささえる。血は夜や寝ている時には肝に戻り、覚醒時、活動時は必要に応じて脈中を流れて全身を巡って知覚活動や手足の動作運動を円滑に行わせるために働く。

血と五臓の関係としては、心、肝、脾と関わりが深い。

心は脈を介して血を全身に送りだして血の循環や拍動に関与する。

肝は血の量を配分して昼夜の別や活動する部位、器官に応じて血量を調節する。

脾は血の生成に関与して全身の血量の多少に関与している。また、営気を介して血が脈外に漏れ出ないようにしている。

「諸々の血はみな、心に属す。人の臥するや、血は肝に帰す。肝は血を受けてよく視る。足は血を受けてよく歩む。掌は血を受けてよく握る。指は血を受けてよく摂る」素問五臓生成編より。

まとめると、血は主として営気と津液でつくられているので血の過不足と運状態は営気と津液の生成に左右される。血の変調はさらに五臓の中で血脈を司っている心、疏泄と蔵血を司る肝、統血を司る脾と関係している。

血の変調は①血の生成不足、②血の消耗過多、③血の運行の失調による障害、の3つに分類される。

・血の生成不足と消耗過多による血虚の原因を以下に示す。

①飲食物の摂取不足による栄養失調。

②脾胃の機能低下による消化吸収作用低下.。

③情動の過度の乱れによる肝の蔵血や脾の統血作用の変調。

④過労や房事の不節制による血の消耗過度

➄慢性病による血の消耗。

全身の血が不足すると血の栄養と滋養作用によって機能している臓腑、組織、器官の機能に失調が現れる。すると血の供給が不足することで体の感覚や運動の機能が低下する。その他にも、視力減退、めまい、たちくらみ、手足の無力感、心臓の拍動異常、健忘、不眠などの症状が現れる。

・血の運行失調は血熱、血寒、血瘀を招く。

血の運行は気の推進性に依存しているため、その失調は気の病理と関係が深い。

※気の性質 推動作用、防御作用、固摂作用、気化作用

五臓の中では、心は拍動により全身に血液を送り届ける。肺は呼吸作用に血液を送り届ける。肝の疏泄作用もまた血液の運行に関与している。さらに脾の統血作用は血液が血管から漏れ出ないように保護する役割を担っている。なので、これらの臓の機能が失調すると血の運行に影響がでる。

このほかに、脈動が通利しているか、血が熱しているか、冷えているかなどは血液の運行の遅速に影響する。

①熱性の変調は精神的な抑うつなどの情動の変調、暑、火の邪気を受けていたり、辛いものや塩味のもの、肉魚などの味の濃いものを多食するなどにより血の中に熱が鬱積して発生する。

②寒性の変調は寒の邪気を受けたり寒性の飲食物を過度に摂取すると起こる。

③血瘀性の変調は寒性の変調が長引いたり、外傷による血の運行失調、および打撲や捻挫などによって血のうっ滞が生じて発生する。これこそが瘀血となる。

血が熱して運行が失調すると血行が加速されておびただしい場合は血が脈外にあふれ出て出血する。血熱の場合は発熱、口渇、口苦、便秘、脈数滑などの熱症状や、血液の消耗症状が現れる。血が寒えて運行が失調すると血の循環が遅緩して手足の厥冷や血瘀などが現れる。血瘀が生じると臓腑や経絡の局部の流通が阻害されて疼痛が起きる。痛みの発生には一定の場所があり増悪すると腫瘤を形成する。