ピアノによる指の腱鞘炎の症状が無血刺絡療法により大幅に緩和した症例について書ていきます。
ピアノには「オクターブ」と言って鍵盤8個分指を広げて捉えるダイナミックな動きがあります。今回はこのオクターブの動作で指が痛むという症状です。腱鞘炎とは、指の腱を包む鞘である「腱鞘」が、指を何度も曲げたり伸ばしたすることで腱と腱鞘の間で摩擦が生じて炎症を起こしてしまう病態の事です。ひどくなると腱鞘部分が肥厚してきて腱をロックしてしまい、曲げ伸ばしが出来なくなる「ばね指」に発展します。そうならないように適切なケアとレストをする必要があります。
結論から言うと、オクターブ動作で指が痛む場合は伸筋腱と指と指の間の骨間筋と水かき部分を緩めて血流を良くせねばなりません。
ピアノを弾く際の打鍵動作は一見、指を曲げる屈筋側が重要なイメージがありますが、本当に大切なのは背側の指を伸ばす筋腱です。ピアノで、ショパンの子犬のワルツやモーツァルトのソナタ、行進曲などの素早くて細かい曲を弾く際に大切なのは、まさに打鍵後すぐ指を離す「分離」運動です。まとまった和音をゆっくり押える協調運動は比較的楽なのですが、一音一音素早く正確に異なる指で鍵盤を捉える分離運動はかなり高度な技術です。打鍵後に即、指を上げる。上げたらすかさず次の打鍵をする、そしたらまたすぐに指を上げる。これを連続して素早く正確に、さらには強弱と緩急を交えながら音を奏でるからこそ美しい音楽となるのです。…そして、このレベルの方々は練習している曲の難易度が高く、練習時間も長く、高い集中力を持って反復練習をされてる方が多いと思います。…皮肉な事に、だからこそ痛んでしまうのです…。
さらには、上級の曲となるとショパンのポロネーズ6番のような左手オクターブの連打、リストのカンパネラのようなオクターブ+小指と薬指をいじめまくる鬼のようなフレーズもあります。そのような難しいフレーズを高い集中力と忍耐力を持って長い時間、反復練習を行うとどうなるか?
まずはオーバーワークにより筋疲労が起きます。次に血流が悪くなります。そこから疲労物質や痛みの物質が血管壁から出てきて局所に停滞します。オーバーワークにより筋腱がパンプアップして血流が悪い状態なため、疲労物質と痛みの物質がなかなか流れていかないため、使い続けると痛みや重だるさは持続します。なんの対策もせずにこれを何日も行うと、当然筋腱の組織が傷ついて炎症を起こしてしまい、それが慢性化しやすくなるのです。
では、どのように対策をすればよいのか?
①使ったら必ず手指を温める事。
それも44℃~45℃くらいの熱めのお湯で温めて下さい。少し強めの熱刺激は、外側脊髄視床路を通り間脳視床下部に運ばれ自律神経に届き、末梢へ即座にフィードバックがなされます。それ即ち、副交感神経が優位になり末梢の血管が広がるのです。血流が良くなると、局所の老廃物が流れて、新しい酸素や栄養素が疲れて痛みかけている細胞に届けられてリカバリーが促されるのです。使った後は「アイシング」じゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、アイシングは基本的に、腫れて熱感があって動かさなくてもジンジン痛いような急性の外傷時くらいです。オーバーワークによる疲労時は、冷やして血流を悪くするよりむしろ温めて局所の循環を促した方が良いのです。※ただし、温めていると気分が悪いという方は中止してください。
②ピアノを弾く時は背中を伸ばして頭を上げる。
YouTubeでピアノ演奏されている方の動画を見るとたまに、最初から最後まで首と背中を曲げてもろに前かがみで弾いている方がいます。申し訳ないですが、これは最悪なフォームです。曲のところどころや一時だけならばいいですが、演奏中ずっと前かがみ姿勢を続けるのは絶対によくありません。
頭は体重の4分の1くらいの重さがあります。その頭を、土台である体幹部から離して前に垂らすと首と肩、背中の筋肉と筋膜がもろに引っ張られて血の巡りが悪くなり筋肉も筋膜も硬くなります。かなり強い張力が首肩周辺にかかるのです。手指と首肩は筋膜や神経、血管で繋がっています。そのため、手指の方の筋膜や筋肉の持つ柔軟性やゆとり分を奪って、首肩で生じた負担をなんとかリカバリーしようとするのです。つまり、前屈みで頭を前に倒してピアノを弾くと指の動きが悪くなって指の細胞が傷みやすくなります。
超絶技巧を得意としたフランツ・リストは生前、「指が背中から生えていると思って弾くと良い」と言っていたそうです。難しい曲を弾くには手指の柔軟性が大切で、そのためには前屈みよりもむしろ少し後ろに反らすような気持で、骨盤を立て頭を持ち上げ、背中を緩ませて、その背中の緩みを手指に送ってあげるようなフォームが最適であるといえます。
③演奏中の噛みしめは絶対にだめ。
これは僕自身もそうでした。幻想即興曲など難しい曲の難しいフレーズを弾く際に気合をいれるためよく奥歯を噛みしめていました。噛みしめると「自分は今、がんばっている」と思えたからです(笑)しかし、ピアノを弾く時に奥歯を噛みしめながら弾いてはいけません。顎と手指は東洋医学の経絡でも繋がりがあり、噛みしめると親指と人差し指の動きが悪くなります。しかも親指と人差し指は腱鞘炎の好発指でもあります。臨床では、指の腱鞘炎の施術で局所のアプローチがあまり功をなさない場合、逆の発想で顎に鍼を打つと指の運動時痛が解消されるケースもあるくらい、繋がりがあるのです。
最後にまとめます。オクターブ動作で親指が痛む症例では、前腕伸筋群をマッサージ、筋膜リリース、鍼の響きを用いて緩める。前腕を温める温熱療法を行う。親指の痛む周囲に無血刺絡による刺激を行うことで、指を開く際の痛みが解消されました。
しかし、上述のとおり腱鞘炎の改善には「ケア」と「レスト」が大切です。使い続けばまた痛みます。もしもピアノを弾く時に指が痛むという方は是非、温め、姿勢、顎の脱力を心がけてみてください。
当院では、手指の痛みだけではなく、あらゆる運動時痛改善の手技にも力をいれています。お辛い時はいつでもお待ちしております。
※27年のブランクを経て2021年11月からピアノを練習し始めました。ピアノ練習中に思った事を綴るブログも良ければご覧ください。
ブログを見る↓
https://h5seikotu.com/archives/tag/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E
施術を予約する。
東京都 新宿区 文京区 神楽坂 飯田橋 で鍼灸、整骨院をお探しなら是非、東五軒町鍼灸整骨院へお越し下さい。
当院は、あらゆる「動かすと痛い」症状改善の手技、自律神経調整に効果がある無血刺絡、頭痛鎮静の鍼、響きを与える鍼、瘀血を出す刺絡、お美顔の美容コースを行っております。その他、自賠責、労災は自費負担ゼロで施術が受けれます。