怖くて不気味な「Scherzo No.1」とホロヴィッツ。

なぜこんなにも不気味なのか?

ホロヴィッツのscherzo no1は格別に怖い。

ショパンのscherzo no1を、ホロヴィッツが弾くとなんでこんなに怖くて気味が悪いのだろうか?

ただひたすらに「狂気」を感じるのはなぜなのか?
ホロヴィッツが弾くscherzo no1は、

真夜中の暗闇 濡れた路面 夜霧の山道を照らすハイビーム かと思いきや、曇天の平日の午後 大きく見開いた目 鋭い痛み 仮そめの安全地帯 夢の中一時の安らぎ 幸せに入るヒビ割れ 寝てる時にぶっかけられた冷や水 抵抗 失われていく理性 むず痒い 終わらない苦痛 熱い 息苦しい 発狂 死にそう 

みたいなものを感じる(笑)
普通に考えてやばいと思う。なんで?なんなのだろう。

他の人のは怖くない。

YouTubeで同曲を上手い人が弾いてるのを聴いたことがある。
しかし、さほど上記のような負のイメージは受けなかった。

ホロヴィッツが弾くとなんで不気味になるのだろう。
scherzo no1はscherzoの中でも個人的に1番気味が悪い。

だけど、なぜか癖になる。

これが「冗長」?

scherzoとはそもそも、「冗長な」とか、「軽快」などの意味らしい。
かの有名なシューマンは、ショパンのscherzoを聴いてこう言った。
「冗談が漆黒のベールを纏うならば一体、真面目は何を着ればいいと言うのだ⁉︎」と。

シューマンもscherzoに対して、黒さ、不気味さのようなものを感じたならば、ホロヴィッツのそれはショパンに近いのかもしれない。

感じる闇と病み。

YouTubeで聴いたscherzoの弾き手には、おそらく闇の要素が足りないのだろう。
「闇」といっても「闇バイト」とかの「闇」ではない。

つまり「悪意」ではないのだ。

なんというか、冷たくて痛い、簡単には取れない心に積もった漆黒のコールタールのようなものを想像する。

そしてもしかしたら、ホロヴィッツ自身の心の病みも…。

戦争の苦痛。

scherzo no1作曲の背景に何があったのか少し調べてみた。

1830年頃、ショパンの故郷であるポーランドはロシアによる支配から脱却しようと抵抗していた。
激しい戦い、すなわち戦争中だったのだ。
その中で、ショパンはパリに亡命した。
祖国のために音楽で戦っていたのだ。

よって、scherzo no1の背景には戦争がある。

幸せな中間部。

scherzo no1の中間部は、闇と痛みを抜けて一時の安らぎが訪れる。
この部分には、ポーランドのクリスマスキャロルのメロディが引用されているらしい。
とても穏やかで、暖かく、幸せな時間。
あの頃は良かった。と、恐らくショパンは過去を回想していたのではないだろうか。
この時間が永遠に続いてほしい…。もう少し、もう少しだけ夢の中にいさせて…。というところで、無惨にも鋭く切り裂かれる。冷たくて痛い!容赦なく現実に引き戻される。

scherzoと戦争。

僕がホロヴィッツのscherzo no1を聴いて感じ取った印象は概ね正しい。
なぜならば、この曲の背景には戦争があるからだ。

そう考えると、ホロヴィッツは凄い。
国も歳も年代も違う人間に、情景や感覚を克明に感じさせる表現力がある。
半端ない。…語彙がなくて「凄い」「半端ない」しか出てこない自分が情けない…。

音で当時の恐怖、苦痛が伝わってくる。

言葉や文字でなくとも、戦争の恐怖や苦痛は音楽で伝わるのだ。
むしろ、音楽だからこそ鋭く細かく表現できるのかもしれない。

ショパンなど、当時の才能ある音楽家は情景や感情を音にして楽譜に記録した。
そののちに、優れた演奏家が、楽譜という名の記録媒体を読み解く。力のある演奏家であればあるほど、その解像度が高い。
音楽の「解釈」とは、記録媒体である楽譜の読み解きだ。

幸せな中間部の崩壊。

ショパンの曲は、前半が暗めで、中間部が幸せで、また暗くなるみたいな構成の曲がいくつかある。
僕が弾く中でも、幻想即興曲とワルツ7番64-2がそれにあたると思っている。

もう少しだけこのまま、どうか夢なら醒めないで…というところで静かに現実に引き戻される…。
ワルツ64-2は寂しいが、割と優しく丁寧に現実に戻される。気づいたらたった1人…みたいな。

幻想即興曲も優しい。夢のような安らぎの一時が終わりを告げる時、にわかに降り出した雨の一雫が額に当たって目が覚めるみたいな。

だが、先ほども書いたがscherzo no1は、鋭い痛みを伴って現実に戻されるのだ…。

ホロヴィッツのscherzo no.1は別格だ。少なくとも僕はそう思う。

これを聴いたら、申し訳ないが他の人の演奏が霞む。

そして戦争は良くない。絶対に。

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