「最近、手指が震えるようになった」という言葉を聞く事があります。
手指が震えるのはなぜでしょうか?
更年期障害、甲状腺機能亢進症、ストレス、恐怖でも手指は震えます。
これらに共通するのは「交感神経」です。
更年期障害
閉経前後の女性に多い疾患です。
動悸、ホットフラッシュ、ふるえ、頭痛、うつ、自律神経症状などが出現します。
原因は、エストロゲンを主体とする女性ホルモンの低下が考えられています。
エストロゲンは生理周期など女性の体に大きく関わるホルモンです。
その他、エストロゲンはストレスから守ってくれる働きがあります。
エストロゲンが低下するという事は、ストレス耐性が大幅に減少する可能性があるという事です。
ただ、更年期障害だからといって全ての方がホルモン療法で、エストロゲンを補充すれば症状が消失するわけではありません。
それに、近年では男性の更年期障害もよく話題になります。
耐性が弱っている状態でストレスを受けると交感神経が優位になりやすくなります。
甲状腺機能亢進症
バセドウ病とも言います。
甲状腺機能が亢進すると、身体が常にエネルギーを放出しているかの如く、代謝が活発になってしまいます。
症状は、体重減少、多量の発汗、動悸、眼球突出、震え、甲状腺の腫れなどです。
原因は、自己免疫やウイルスが甲状腺の細胞を攻撃して炎症が起きる事が考えられています。
代謝が活発になるという事は必然的に自律神経は交感神経に傾きます。
交感神経
ストレスを受けたり、命の危険を感じたり、代謝が活発になっている時は基本的に交感神経が優位になります。
交感神経は敵と遭遇した際、「逃げる」もしくは「戦う」時に優位になる緊張状態を維持する神経です。
アドレナリンと交感神経
交感神経が優位になるとアドレナリンが分泌されます。
というか、アドレナリンこそが交感神経といっても過言ではないのです。
アドレナリンが出ると心拍が速くなり、血圧が上り、瞳孔が開き、筋肉への血流が増えます。
そして、脂肪を分解してエネルギーを造ると同時に、肝臓から糖を取り出してエネルギーにし、血糖値が下がらないようにインシュリンを止めます。
反対に、消化吸収、排せつ、免疫の一部などは一時的にストップします。
アドレナリンはこれらの反応すべてに関与するのです。
アドレナリンと振戦
骨格筋にはβ2受容体があります。
アドレナリンはそのβ2受容体にくっつくのです。
すると細胞を興奮させるスイッチが入ります。
それによりカルシウムイオンが増えて漏れやすくなり、敏感になります。
カルシウムイオンは筋収縮を起こす働きがあります。
筋細胞が敏感な状態で、カルシウムイオンが増えると少しの刺激で筋収縮が起こります。
その頻度が高いと震えになるのです。
その他にも、強く緊張してアドレナリンがたくさん出ると、運動神経の働きが活発になりすぎて運動に関わる他のセクターとの協調が取りにくくなる事でバラバラに細かく動く事となります。
これも震えの原因です。
ストレス=戦いを意識している可能性
交感神経もといアドレナリンは上述の通り震えと密接に関係しています。
免疫異常により炎症を起こして代謝が活発になる事で交感神経が優位になる甲状腺機能亢進症は除外しますが、それ以外の震え症状にはストレスが大きく関係している可能性が高いと思います。
職場や家庭など、特定の場所や人物、シチュエーションで振戦が特にひどくなるなら、その中にストレスの原因があるはずです。
それを避ければアドレナリンが出ず、震えなくなるかもしれません。
震えるのは、びびっているわけではありません。
戦いを意識して、アドレナリンが出ているだけです。
もしも振戦症状で悩んでいるなら、まずは医師に相談して見て下さい。
甲状腺や脳、神経系などの異常かどうかの鑑別のためです。
それで異常がなければ、交感神経が優位になってアドレナリンが出る条件を試しに探して見て下さい。
アルコールによる震え
アルコール依存症の方は血中アルコールが少なくなると振戦が起きます。
これは、上記のようにアドレナリンが関与していると共に、脳の器質的な変化が強く関係しています。
アルコールを摂取するとGABAが出ます。
GABAは過剰な神経の働きを抑制してくれるのです。
それにより、不安や過敏な感覚、神経質な思考などが緩和されます。
しかし、それを長く続けるとGABAがでなくなります。
そして「アルコールがあって当たり前」の状態となるので、それ以外の時は神経が過敏になりっぱなしになります。
神経が過敏という事は、不安を抱きやすくもなるし身体は緊急事態と判断して交感神経を優位にするのです。
一度、変性を来たした脳は元に戻りません。
習慣を上書き保存するしかありません。
規則正しい生活と禁酒により脳のプログラムを上書きしても、書き変えではないためその気になればすぐに元通りのアルコール依存脳に戻ってしまうのです。
アルコール依存による振戦の改善には時間がかかると思います。
でも、諦めずに少しづつでいいからお酒と距離を置き、お酒に依存しないプログラムを上書き保存してそれを保守するよう努めねばなりません。
