東洋医学では、気、血、水が体の中をめぐっていると考えています。これらが円滑に循環している分には良いのですが、滞ったり不純物が混じっていたりなど流れが悪くなることにより瘀血が生じるのです。
正常な血液の働きは、全身に酸素と栄養と体温を運んで、代わりに代謝の際に出た細胞の老廃物を回収することです。この過程の中で、血流の停滞が生じると細胞レベルでの酸素不足や栄養障害に陥ってしまい、体全体に影響を与える体温の低下や局所の冷えにもつながります。
血液循環の流れを説明します。まず血液は動脈に乗って心臓から全身に運ばれ、頭部、手足末端、内臓に酸素や栄養、体温を運びます。手足や臓腑の末端で血管は毛細血管となり、動脈から静脈に移行する過程で微少循環が行われるのです。
この末梢の血管は時として、血流がうっ帯を起こすことで拡張や怒張することがあります。東洋医学ではこれを「細絡」と呼んでおり、細絡があるところには瘀血があると考えます。血液の滞りは良くありません。栄養が行き届かなくて、細胞で使い古された老廃物という名のゴミを回収できないわけですから、その状態は不健康であり様々な病気に繋がる危険性をはらんでいます。
老廃物を含んだ静脈血は肝臓で解毒され、肺で酸素を充分供給されて新鮮な動脈血となって再び心臓から全身に送り出されることになります。この血液循環は絶え間なく繰り返されています。心臓は1日に約10万回拍動し、約7000リットルにものぼる血液を全身に駆出しているのです。心臓の拍動回数は一生に換算すると25億回にものぼります。
さて、血液が血液本来の正常な生理作用を発揮するには、当たり前ですが血液が血管内にあり、滞りなく循環していることが何よりも重要です。そして血液自体が健康でなくてはなりません。
体重の約80%の血液が我々の体を循環しています。この血液を細かく分けて見ると、主に血漿という水分と、赤血球、白血球、リンパ球、血小板等に分けられます。
リンパ球は体内に侵入した悪い細菌やウイルス、寄生虫などを駆除する働きがあります。血小板は血管における出血箇所の止血に働きます。赤血球は上記のように酸素、栄養、熱を全身に送り届けて老廃物を回収します。白血球、赤血球、血小板をのぞいた後に残るのが血漿です。水分、タンパク質、塩類、脂質、酵素などが主な成分です。血液に、多すぎる塩や脂質、糖質、その他不純物はこの血漿という液体に混ざるのです。
臨床で刺絡療法を行った際、白い液体が混じった血液を見たことがあります。恐らくこれは血漿内の脂質、もしくはなんらかの老廃物かと思われます。繰り返しの不規則な生活や、高頻度且つ多量の不摂生は血液内に不純物が混ざりやすいです。瘀血排出の前に、生活習慣を改めて瘀血防止に努める事が第一です。
さて、瘀血の発生には動脈系よりも静脈系が大きく関与しています。動脈とは心臓から全身に向かう「行き」の血管で、静脈は老廃物を回収して心臓に戻る「帰り」の血管です。
動脈と静脈では血液を巡行させる圧の強さが違います。行きの動脈の方が強く、帰りの静脈の方が弱いのです。静脈には逆流防止の「弁」がついています。しかしそれだけでは弱い圧対策としては心元ないです。そのため、帰りの静脈は筋肉運動などのサポートがあると心強いのです。
「ふくらはぎは第二の心臓」という言葉を皆様どこかで聞いた事があると思います。それはふくらはぎの筋肉を働かせ収縮拡張を繰り返す事でポンプの如く下肢末梢の血液に圧をかけて心臓へと押し上げるのです。
年配の方では下肢静脈瘤を患っている方が多いです。理由の一つは静脈弁が老化で機能が衰える、もしくは機能不全に陥る事にあります。血液が滞る事で血管壁が膨らんで伸びてしまい、皮膚表面上に盛り上がってきているのです。
一度伸びた血管は元に戻りません。著しい時は手術で対処するしかないのです。刺絡でもどうにもなりませんし、毛細血管以外の血管に意図的に干渉する事は鍼灸師の範疇を超えているためできません。
静脈での血液の滞りは下肢の他に、下腹部の静脈にも起きやすいです。
下肢の瘀血はエコノミークラス症候群や下肢静脈瘤、直腸の瘀血は痔、子宮や卵巣の瘀血は下腹部痛や更年期、不妊症に繋がると「瘀血を治す」の著者である西村皓一先生は書いています。
下半身の静脈の圧が弱いならばそれを助けるためにはとにかく下肢の運動が大切です。
不摂生を避け、運動をして、身体を温める。これらが瘀血をためず、健全な血液循環を保つための秘訣です。