最初に書いておくが、この記事は「ドイツの名門ベヒシュタインとメルセデスベンツの共通点は…」とか、「ドイツのクラフトマンシップの崇高な精神が…」などの格調高いものではない。それどころか、とても低俗な内容になる予定である。
ピアノを独学で練習し始め、今年の11月で5年目になる。今の今まで、下手の横好きで書くのも憚られるような難しい曲ばかり背伸びして練習してきた。ずっとショパンを練習してきたが、一区切りついたところで去年はリストのラ・カンパネラを暗譜し、今年はパガニーニの大練習曲6番という、今までで一番難しい曲を練習している。
たまに患者さんとピアノの話になる事がある。音大卒の方、ピティナの全国コンクールにお出になられる方、オーケストラと合わせてヴァイオリンを弾かれる方、ジャズピアノを習い始めた方、子供の頃に習ってらした方など、皆様本当に素晴らしい方々ばかりだ。
無論、ピアノなどの楽器を習っていない方ともクラシックの話をさせて頂く事も多々ある。
その中で一番困るのは「相当な実力がある人物」と思われる事だ。「いや、誰も思ってないから心配するな」と言われるかもしれないが、これが困ったことに自分で否定すればするほど、謙遜すればするほど、より、かなりの実力者なのではないか?とハードルが上がることに気付いた(笑)
どうにかしてただ単に暗譜しただけで、人に聴かせられるような出来栄えではないとわかってもらいたい。そのためにはどうすればいいか?色々考えた挙句、現状の僕に割とぴったりの表現というか現象をある時思いついた。
僕の故郷の青森、いや東北に限らずどこにでもいると思うが、若くて高級車に乗りたいという野心を抱いて実際に購入する若者がいる。例えばベンツ、BMW、アウディなど。その中でもハクをつけるならばベンツが人気だ。ベンツは定価で買えばとんでもなく高額だが、中古で型落ちならば物により数十万円で買う事ができる(笑)
免許取りたてホヤホヤで、中古型落ちベンツをフルローンで買って調子にのるリテラシーの低い田舎の若者。それも言うに事欠いて、「ベンツの次はBMW乗りてーな」などと…※勿論、中古型落ちフルローン。
彼らには、ドイツの名門メルセデス・ベンツの崇高なクラフトマンシップのカケラもへったくれもわからないだろう。それどころか、素晴らしい車なのに下手なハンドルとブレーキ捌き、周囲への無配慮などで、車本来のスペックを使いこなせず、そもそも免許取立てで経験不足なために乗りこなせない。
自分で言うのも癪だが、言うなれば僕のピアノはそれに近い(笑)
正規の手順ではないのだ。ピアノでいうと本来ならば、専門の指導者に付いて10年かけて辿り着く領域にいきなり土足で上がり込んでいる。そのため、当然うまく弾けない。指と手首が硬くて滑らかに動かないし、上級の曲を弾くための経験が圧倒的に少ないため応用の引き出しがなくとても苦労する。
そして、指導者がいないので演奏がどんどん独りよがりなものになっていくのだ。
なぜベンツの型落ち中古が安いか?それは、もはやいつ壊れても不思議ではないし、壊れても部品がないからだ。中古車屋で型落ちベンツを買った場合、それを正規店に持ち込んでもそのベンツは整備してもらえない。よそで手入れした製品は、たとえメルセデスでも「よく似てはいるが、それはウチの製品ではない」と突き返されてしまうのだ。メルセデス認定中古ではない中古車は基本、正しいサポートを受ける事ができないのだ。
ピアノも変な癖が付いていると修正は難しい。だからこそ「鉄は熱いうちに打て」で、子供の頃から継続して習う必要がある。小さいうちからコツコツキャリアを重ねて、ようやく高難易度の曲に到達できるのだ。
僕のように、いくら子供の頃に2年ほどピアノを習っていたとはいえ、20年以上のブランクを経ていきなり上級レベルの曲の習得を試み、あろう事か「ショパンの次はリスト」など…聞く人が聞いたらブチギレるだろう(笑)
この、僕が思いついた「ピアノとベンツ理論(仮)」を実際に患者さんとお話をしていて僕のハードルが上がりかけた時に、ここぞとばかりに展開した事がある。その結果、笑ってくれた(笑)そして、「そんな事ないよ」と優しい言葉をかけてくれた。
なのでこれから先が大切だと思う。毎日ピアノを練習していき、そのうち変な謙遜をしなくても良い本当の実力を身につければ良いだけの事だ。
「ピアノとベンツ理論」…正確には「素人のピアノ上級曲習得と中古型落ちベンツをフルローンで買う田舎の若者に共通する無謀と愚かさ理論」に基づいたポジションから一刻も早く脱却したいと思う。