親と子。親自身が過剰活性した子の扁桃体。

「親と仲が悪い」、「どうしても会うたびに喧嘩してしまう」という方も世の中にはたくさんいるのではないだろうか。

その中で、「あれをしてはいけない、これをしてはいけない」「それはやめなさい、これもやめなさい」と子供のやる事にいちいち口出ししてくる親というのがいる。毎回、何かとケチをつけてくるのでうっとうしく、そのうち会いたくなくなって、避けるようになってしまう。

今日はこの現象について考察していく。

まず大前提として、親が子に対してこれから起こりうるであろう脅威を未然に予測して取り除くのは当たり前の事だ。特に幼少期に関しては多少過保護気味になってしまってもしょうがない部分もある。「親心」と「過保護」の線引きは難しい。

以前、「プラス思考とマイナス思考」についての本、「スマホ依存」についての本を紹介した。それらによると、人間は本来皆マイナス思考である。なぜならば、世の中には様々な危険があるからだ。自分や家族が傷ついたり害を被ったりして生存確率が下がらないようにしなくてはならない。そのためには、危機意識を常に持ってリスク管理を徹底せねばならないのだ。

しかし、リスクばかりを気にしていては何もできない。人は、どこかで恐怖の感情に折り合いをつけて人生を生きている。

この、「恐怖」を司る脳領域は本能に直結している大脳辺縁系内の偏桃体だ。

そして、過剰な恐怖を理性で抑えるのが大脳皮質内の前頭前野である。

偏桃体と前頭前野、この二つのパワーバランスによってプラス思考かマイナス思考かが決まるといっても過言ではない。

話を戻すと、子供が小さいうちは親がしっかりとリスク管理をせねばならない。そして、子の良き成長のため、様々なチャンスや機会も同時に与えてやらねばならないとも思う。

いうなれば、子供が小さいうちは親が子供の「偏桃体」であり「前頭前野」であるということだ。過剰な心配は子供自身も神経質になったり、親の性格が伝播して臆病になる。多少のリスクはあってもそれをしっかり管理し、安心させる、希望を与えるという「前頭前野」の役割をすることが肝要だ。

これをわきまえていないと子供が成人しても、「うちの子共のどこかに落ち度はないか、リスクはないか?」と会う度にアラ探しをするようになってしまう。これを毎回やられると子供は、監視されているように感じて、親のいる前では伸び伸びと出来なくなる。無駄な緊張はパフォーマンスを低下させる。勉強や趣味、習い事などの今やるべき事の遂行に脳の演算処理力を一局集中で注がねばならないのに、「親に怒られないように」という無駄な事に脳のエネルギーが取られる。それにより、集中力が分散されて実力が発揮できなかったり、技術や知識の習得に遅延が生じたりミスが起こる。

そして最悪なのは「毎回親から怒られるので自分はダメな人間なのだ」と思いこんでしまい、自尊心を失ってしまうことだ。

親サイドからすれば、「世間に出た時に恥をかかぬように」とか、「高めのハードルを設定して厳しくすれば実社会が楽になる」など、「大切に思うあらこそあえてそうしているのだ」という思いもあるだろう。

しかし、それを過度に行うと子供はあらぬ方向へ変ずる場合もある。

誰かに逐一監視されてアラ探しをされるのは子供だけでなく、誰だって大きなストレスだ。そのため、「もっとダメなやつになれば親は自分を怒る事を諦めるのではないか?」という逆転の発想の仮説を立て実行するのだ。

ある意味これは、以前紹介した「ポリヴェーガル理論」に基づく、背側迷走神経が優位になってる状態ともいえる。自然界において背側迷走神経が優位になるのは、動物が喧嘩で勝てない相手に対して身を守るために「死んだふり」をする時だけだ。

トラブルに相対した時に、無傷で無事に事態を収拾させる最上の技が「死んだふり」なのだ。それはつまり、自分はそこいらの石と変わらない無機物であると。無機物に喧嘩を売っても何の反応もないし、時間の無駄だし、周りからも変人扱いされてあなたが恥をかきますよ?だから私を無視して放っておいてください。という意志表示なのだ。

親が苦手な子供は世に出た時、親に似た大人が苦手になる。そしてそれはビジネスにも大いに影響を与える。親に似た人物を見て、「どうせこの人も自分のアラ探しをしてくるのだろう」と決めつけ集中して実力を発揮できず「自分をダメな奴だと思っているのだろう」と思い込む。そして「自分はあなたが望むような事は一切できない、期待に応えられないから、頼むから他に行ってくれ、見放してくれ、自分を無視してくれ」という、ある意味で「死んだふり」をするようになるのだ。なんの業種であれ、これではせっかくのビジネスチャンスを逃していしまう。こんな思考と行動の癖は悪癖であり、いい事は1つもない。

まあ甘やかしも良くないが、親はリスクマネジメントを行った上で、安心感とワクワク感、ストレスに打ち勝つ「心のワクチン」を与えてやらねばならないのだ。そして、天狗にならない程度に時々注意を促し、なにより「自尊心」をしっかり持たせてあげる事が肝要だ。

「余計な事は気にせず全力で目の前の事に自信をもって打ち込める」、「リスクを十分承知した上で勇敢に立ち向かい無事に成果を挙げる」、「堂々と自己実現を成しえる」子になってもらいたいというのは全親の望みだと思う。そして、何歳になっても親子で良好な関係を築く事も同時に望む事であろう。そのためには、今一度自分自身が子に対して「偏桃体の過剰活性」のみとなっていないか?「前頭前野」の役割も同時に果たし得ているだろうか?という事を考えなければいけないと思う。