井穴刺絡と「禁句」に過剰反応する末梢血管について。

井穴刺絡療法とは、指先にあるツボ(井穴)に特殊な針を刺し、少量出血をさせる施術法のことをいう。

それにより、自律神経を調整すると共に様々な症状の緩和を図るのが目的だ。

井穴は自律神経、五臓六腑に繋がっている。

東洋医学的に、指先のツボ(井穴)は末梢から体幹、そして内臓へ続くと考えられている。

この井穴を用いた井穴刺絡療法は、関連した部位の運動時痛緩和、自律神経調整などに功を成す。

今回は、いつかの日に当院で行った施術の際に気づいた、とある事象について述べる。

井穴刺絡にまつわる、印象的な症例。

あまり詳しくは書かないが、その患者様は職業に関わるセンシティブな悩みをお持ちだった。

そしてそれのせいで呼吸器に関わるある症状に悩んでいた。

その症状は、呼吸器専門の病院でも改善が見られなかった。

その後、色々調べるうちに当院で行っている井穴刺絡療法にたどり着いたという次第だ。

瘀血が出やすい時とそうでない時。

さて、この井穴刺絡療法だが指先に針を刺す際、寒かったり緊張していて末梢血管が縮んでいる状態だと思ったように瘀血の排出がなされない場合がある。

※滞った静脈血のことを東洋医学では瘀血と呼ぶ。

特に、足趾末端の井穴は夏でもなかなか瘀血が出にくい場合が多い。

なので、井穴刺絡をするにあたってはとにかく患者様にリラックスして頂く必要があるのだ。

肺呼吸器の症状に対しては主に、指先の人差し指と親指の井穴を使う。

ここは比較的瘀血が出やすい急所でもある。

しかしこの度は軽率であった…。

交感神経優位のトリガー。

刺絡中の会話の中で少しだけ、症状が出てしまう普段の仕事のことについて僕が触れてしまったのだ。

ただ、患者様自身も「そのワード」というか話の内容に関しては、ストレスに思ってはいない。

むしろ「それ」は好きとのことであったので、楽しい気分になってもらいたくて発した言葉だった。

しかし、「そのワード」が出た途端に抹消血管が急速に収縮して瘀血が全く出なくなってしまったのだ。

このような現象は刺絡を10数年やっているが初めての経験だった。

五感と臨戦態勢。

センシティブなワードを聴覚が捉えることで、具体的な負と恐怖のイメージが脳内に広がったのだ。

そしてそれが自律神経とリンクしてストレスを感知した。

結果、交感神経優位となり、心拍数の増加と末梢血管の収縮という現象を招いたのだ。

患者様の指先を触りながら、まさに手に取るように副交感神経優位から交感神経優位に切り替わった瞬間を初めて感じ取った。

井穴刺絡の意義。

井穴刺絡における瘀血の排出量は、だいたい20から30滴程で良いと指南書には書かれている。その意味でいうと一応目的は果たせている。

しかし、本来リラックスして頂き、自律神経を整えると言う目的で行っているはずの井穴刺絡。

その途中で、末梢血管が収縮してしまうと言う事態を招いたのは僕の失敗だった。

その後、その他の自律神経に関係する部位に刺激を加え、もう一度充分にリラックスして頂いた。

その上で、全体的にお身体を整え施術を終了した。

臨戦態勢になるきっかけ。

人はストレスや恐怖を連想させる単純な言葉を聞いただけで身体は反応し、即座に臨戦体制となってしまう。

別に、双方敵対の意志がなくともだ。

そしてこの現象は、休暇中や楽しい気分であってもきっかけがあれば起きるのだろう。

もちろん、なぜ臨戦体制になるかというと最高のパフォーマンスを産むためだ。

交感神経は戦いの神経であり、仕事や全力で動かねばならない時には力をもたらす。

なので、逆に考えるといついかなる時でも即座にベストパフォーマンスを産むため、臨戦態勢に慣れるという事だ。

即、スイッチが入るという、ある意味プロフェッショナルにしかできない特殊技能なのだと思う。

交感神経が過剰だと害になる。

しかし、それが過剰になると弊害を産む。

臨戦体制発動のトリガーを少し緩め、全か無かという二択ではなく神経と心の「あそび」が必要だ。

要はバランスが重要ということ。

バランスをもたらすきっかけとしては「井穴刺絡」が適している。

しかし、一度創り上げたプロの臨戦体制スイッチを調整するのは並大抵のことではない。

少しずつ、臨戦態勢の弊害が起きぬようにコントロールしていく必要がある。

この経験を通じて、心と体、そして自律神経との結びつきは複雑で奥が深いと言うことを改めて感じた次第である。