「不老脳」インプット、アウトプットの重要性。

「不老脳 和田秀樹 著書 新潮新著」は脳の衰えを感じる方は一度読んでみるといいと思われる。著者である和田さんは、東京大学医学部卒の精神科医だ。臨床の他に大学の特任教授やクリニックの院長も務めている。この本は、脳の劣化をなるべく抑えて他人と軋轢を生まず、幸せに生きるためのヒントが脳科学からの視点で書かれた本だ。

人間の脳は20代で成長が終わり、そこからは一日に10万もの神経細胞が減ると言われている。老化と共に脳の萎縮が起きる事は知られているが、真っ先に萎縮が起きるのは前頭葉である。そしてそれは40代から始まると和田さんは記している。

前頭葉は、「考える」「記憶する」「アイディアを出す」「感情をコントロールする」「判断する」「応用する」などの認知機能を司っている。そのうちの、瞬発力を要する情報処理や記憶能力は18歳でピーク迎える。

前頭葉が「完成」するのは側頭葉や後頭葉、頭頂葉らと比べて一番遅く20代半ばだが、やっと完成したと思った矢先、大脳の中で真っ先に衰えるのは前頭葉だそうだ。

「EQ」という心の知能指数というものがある。EQの5大要素は、

①自己認識(自己の感情や情熱、価値、目標などが他人に及ぼす影響の認識)

②自己抑制(自らの破壊的な感情や衝動を抑制する能力)

③動機付け(成果に向けた情熱、達成感の付与)

④共感性(関係する人への思いやり)

➄ソーシャルスキル(他者と調和した人間関係をマネジメントする能力)

の5つだ。

これらは、いうならば「人を人たらしめている」機能であり、これら5大要素がそのまま「前頭葉の働きを示す」といっても過言ではない。すなわち、EQの低下は前頭葉の衰えを表しているともいえる。

近年、「キレる老人」「暴走老人」「老害」などという言葉を耳にすることがある。これらは、「昔からそういう性格だった」という個人差もあるだろうが、まさに年をとる事による前頭葉の萎縮、それによる「自己抑制の低下」が顕著に表れている例だとも言える。

「言わなくてもいい事を言ってしまう」、「ちょっとした事が我慢できない」、「少しでも気に入らないとキレる」、しかしこれらは何も老人だけではなく若者でもこのような傾向の方はいる。いわゆる「キレる若者」。「煽り運転」などもその部類に入るだろう。若者に関しても、前頭葉の機能低下により自己抑制が上手くできないケースも大いにある。

以前紹介した様々な書籍において、ゲーム、テレビ、スマホの使用時間が長くなればなるほど、前頭前野の活性が抑制されたという事実が記されていることを書いた。

さらに、現代は「孤独産業」が盛況だ。恋人や友達と遊ぶよりも一人でゲームやネットフリックス。友達とはスマホ越しのやり取りが主。誰かと食事に行くより、気軽に家でウーバーイーツ。仕事も自宅で一人フルリモートなど。コロナの自粛生活により、人と直接会わない「お一人様」生活に拍車がかかったり、その生活スタイルが定着してしまった方もいるだろう。それらが前頭前野の活性化抑止を助長、ひいては前頭葉の萎縮にも関与していることは想像に難しくない。

前頭葉の活性が抑制されると人はストレスにも弱くなる。その結果、鬱などの精神疾患、引きこもりにも繋がるであろう。

ではどうすればいいか?

それには前頭葉を鍛える事が肝要となると、和田さんは記している。

前頭葉を鍛える5ヶ条を以下に抜粋する。

1「二分思考」をやめる。

他人や、世の潮流という名のバイアスに振り回されず、自分で調べて考えて結論を出す事。

2 実験する。

フットワークの軽さを持ち、どんなことにも挑戦してみる、初体験をしてみる事が大切。

3 運動する。

身体を動かさなければ脳に血流が活性化されないし、うまく働かない。昆虫採集でも神社巡りでもいいから動く。

4 人とつながる。

孤独は脳の老化を促進する。人を思いやる感情は前頭葉に由来する。

5 アウトプットを心がける。

インプットしたものを加工して、アウトプットすることが一番大切。

まとめとしては、常にインプットアウトプットを心がける事が肝要であるという事だ。本を読むなどして知識を増やし、行動して経験を積み、それらを持って人と話す。話す内容や、会話の受け答えも相手の立場や時世を鑑みた上で言葉を選ぶ。これらを続けていく事で脳は、「脳機能を衰えさせてはいけない」と判断して、老化の進みが緩徐なものになるのではないだろうか。「Use it Lose it」という言葉も以前の本の紹介で説明した。身体において、使われない機能は必要なしと見なされ捨てられる。脳機能は使っていればある程度洗練されるし、例え外傷などで傷を負ったとしても、脳自体が神経を再配線してでも機能をなるべく保つように働きかける。

是非とも、最近脳機能、特に前頭葉の機能の衰えを感じる方は上記の項目を実践してみてほしい。