クロスモーダル現象。

2023年10月14日放送、NHKのサイエンスZEROは面白かった。東京大学大学院情報理工学系研究科の鳴海拓志教授が出演されていた回で、人体の持つクロスモーダル現象を取り上げた回だ。

「クロスモーダル現象」とは簡単にいうと、人間の五感が相互に作用し合う事。例えば映画を見る時は視覚と聴覚、料理をする時は味覚と嗅覚を使うなど、人間の脳は普段から異なるいくつかの感覚情報を互いに影響させて総合的に情報を処理、判断している。

番組ではクロスモーダル現象を利用した興味深い実験が行われていた。

まず、出演女優さんにヘッドフォンをして様々な音楽を聴ききながらチョコを食べてもらう。曲によってチョコの味が変化するかどうかを検証するのだ。無論、食べるチョコは毎回同じものを使う。

一曲目はフレデリック・ショパン / ノクターンOp9-2。これは誰もが知る安らぎのクラシックだ。まずはこれをヘッドフォンで聴きながらチョコを食べる。

二曲目はJessica Curry / Mors Premautraという、おどろおどろしいオペラの曲。これを聴きながら同じチョコを食べてもらう。

結果はというと、ノクターンの時は甘くて美味しいかったが、オペラの時は甘みよりも酸味と苦味が強く感じられたと女優さんは言った。本人はてっきり違うチョコを食べているんだと思い込んでいたのに、その後スタッフから同じチョコだと種明かしされて信じられないという表情で訝しんだ。

優しい曲の時はチョコが甘く感じ、恐ろしい曲の時はチョコが苦く感じる。

この現象は「感覚間一致、感覚間協応」というそうだ。「高い音は明るい、低い音は暗い」、「重い匂い、軽い匂い」など、無関係にみえる情報間に自然な結びつきを感じるという、人間独自の脳の働きだ。

この度、女優さんの脳内では、優しい曲→「甘い」、怖い曲→「苦い」という、結びつきを脳内で処理し、実際に味覚として体現したわけだ。

このクロスモーダル現象、感覚間協応をうまく使えば人生をより幸せに生きる上で大いに役立つと僕は感じた。なぜなら、同じ物を食べるにしても、音楽、匂い、明度、温度、色などの環境、またはシチュエーションをうまく工夫すればその食物が持つスペック以上の満足感を得る事ができるからだ。例えるならば、ヤ○ザの事務所にて一人もくもくと食べるすき焼きよりも、大みそかに家族そろって紅白を見ながら食べるすき焼きの方が何倍も美味しく感じるだろうということは想像に容易い(笑)

食に関わらず、五感を駆使した様々な体験をする際は「環境を整えて最適化した方が満足度は上がる」ということだ。

そしてこの感覚間協応は、この世の中の多くのサービスやビジネスにも応用されてる。それが意図的かどうかは知らないが、サービスのシステム内にうまく組み込まれているものもあるし、逆に感覚間協応が働いたがためにうまくいってないサービスもあるだろう。排水溝の匂いがする料理店や、お墓の隣の結婚式場、おしゃれな喫茶店で提供されるラーメンなど。

所謂ミスマッチを解消して、適切な環境を用意することを意識するだけでも、人生における生活の質は今よりも向上する可能性は大いにある。

朝の時間、1分でも長く寝ていたい、仕事に行きたくない、と思う方もいるだろう。そのような方ほど朝、目が覚めるとまず最初にテレビをつけてはいないだろうか?テレビでは毎日申し合わせたかのように暗く物騒なニュースばかり流れる。いっそテレビなど見ずに、クラシックやオーケストラの楽曲を聴きながら優雅に出かける準備をした方がその日の振る舞いや思考も優雅なものとなるかもしれない。