スマホと学力とマルチタスク。

「川島隆太著 スマホが学力を破壊する 集英社」インパクトのあるタイトルに惹かれて思わず手に取り読んでみた。

この本は、仙台市の中学生2万2390人を対象とした実験を基に、学力とスマホなどの電子機器使用頻度の相関性について論じている内容となる。

結論としては、スマホ、テレビ、ゲーム、ライン等を一日1時間以上行うと学力が下がる。そして、その時間が増えれば増える程に学力もどんどん下がっていく。睡眠時間も大切で、7~8時間寝ている群が一番成績がよい。これは、恐らくスマホなどのデジタル機器を頻繁に使っている生徒達は、睡眠時間を削ってそれらをおこなっている可能性があるため、必然的に睡眠時間は少なくなるからという要因もあるとしている。

また、興味深かったのは、スマホやゲーム、テレビなどを全く使用しない群よりも、一時間未満だが使用した群の方が成績が良い事だ。これに関しては、親の収入と安定した家庭環境という基盤が少なからず影響している可能性を示唆している。学力と親の収入に相関関係がある事はすでに様々な文献で明らかにされている。親の収入が低ければその学生の学力は低い傾向にある。「スマホなどを全く使用しない」群の生徒達の中にもしかしたらそのような要因があり、物理的にそのもの自体を所有していないという可能性も考えねばならないだろう。

それに、スマホやテレビは情報収集や教養を深めるといった意味では有意義に使える場合もある。ゲームに関しては、ものにもよるがゲームを通じて空間認識力が高まり、数学の成績向上につながるという事例も実際にある。なのでこれらは使いようではあるのだ。そして、どんなツールであっても使用する人間がしっかりコントロール出来ているならば問題ない。恐らく、スマホなどを一時間未満有意義に使っている群は、自制心が強い優秀な学生が多いのかもしれない。

しかし、注目すべきは「ライン等」を一日1時間未満行っている群と、全く行わない群とでは、ライン等を全く行わない群の方が成績が良かった点だ。「ライン」とは、メッセージをやりとりするアプリの事だ。「等」とつくのは、電子メールやInstagramのメッセージ機能、Facebookのメッセンジャーなど、類似のものも含んでいるという意味だ。

「ライン等」はよくない。手軽にメッセージのやり取りができるのは便利だが、そのせいでさして重要でもないメッセージをひっきりなしに送り合っていて、通知が来る度に集中力が途切れるため、自宅学習の持続に多大な弊害がでている学生も多いであろう。さらには、「メッセージを送り、返事が届いたらすぐに返さなければいけない」という一種の「カルマ」が生まれ、それに苦しむ学生も多い。特に女子。そうなってはもはや勉強どころではない。

そして、ライン等におけるもう一つの害悪は、「気になってしょうがない」という人間の持つ本能の部分が強制的に刺激される点だ。…これに関しては今書いてしまいたいところだが、「アンディシュ・ハンセン著 スマホ脳 新潮社」に詳しく書いてあったので、その本の紹介ブログにて詳しく書いていこうと思う。なにしろ長くなるので…。

実は、多くの学生達が自宅学習においてデュアルタスク、マルチタスクを行っている。要は、スマホで音楽を聴きながら、学習教材動画を視聴しながら、スマホゲームをしながら、友達とラインをしながら勉強をしているという事だ。

上記のように、2つのことを同時に行う事をデュアルタスクという。さらには、上記のものを複数同時に行うマルチタスクの学生もいるのが実態なのだ。

大人も気を付けなくてはいけないが、デュアルタスク、マルチタスクは良くない。なぜならば、注意が分散されて集中力が低くなる。1つ1つのタスクを一個ずつ行う場合と比べ、遂行時間に遅れが出るし、ミスも多くなり、理解の度合いも低くなる。マルチタスクを行って結果を出すエリートもいるだろ、と思う読み手もいるかもしれないが、そのような人は並々ならぬ集中力を持って1個ずつ「今やる事」と向き合い、素早く確実に処理しているのだ。それが周りから見たら同時進行で複数のタスクをこなしているように見えているだけだ。

その「並々ならぬ集中力」を培うのに大切な時期が幼少~学生時代なのだ。その大事な時期がスマホなどのデジタル機器により「破壊」されてしまっている。

マルチタスクを行っている学生や親は今すぐ辞めるべきだ。ご飯を食べながら新聞を読むとか、テレビを見るのもデュアルタスクである。まずはこのあたりから辞めてみて、美味しいご飯を楽しむ事に一極集中してみてはどうか。

「昔の人」という生き物、というか概念がある。固定観念に捉われて新しい文化や技術を訝る人たちの事だ。

これは、ただ単に出生年月日の古さに基づくだけのものではない。老いていても思考の柔軟性に富み、リベラルな考え方をする人もいる。この「昔の人」は、ほぼ何の根拠もなく自分が思った事を良かれと思って好き勝手に「提言」する傾向にある。その結果、「面倒くさい人物」として周囲から煙たがられる。

しかし時として、「昔の人」のいう事が物事の確信をついていたりもする。「スマホは毒だ、ゲームはやめろ、テレビはあんまり見るな、やりすぎると頭が悪くなるぞ!」という「昔の人」の言葉を皆さんも一度はどこかで聞いた事があるでしょう?それに対して「そんなことない」と思った事があるでしょ?

これらの「ありがたい提言」が、ほぼ全部正しい事がこの本に書かれている実験で証明されている。その他にもスマホに関連する別の書籍、別の研究でも「昔の人」を後押しする数々のデータがあることは確かだ。

ハイテクよりローテクが勝る事もある。今こそ「液晶画面」越しではなく、直に人と会って、対面で話をするという事をするべきだと思う。手始めに家族や親戚、おじいちゃんおばあちゃんなど。きちんとしたコミュニケーションの上に、集中力があり、勉強がある。まずは、居間のテレビを消して家族と話をするべきではないだろうか。