プラス思考、マイナス思考について。

「脳科学は人格を変えられるか? -エレーヌ・フォックス著- 」はとても面白い本だった。

この本は、いわゆるプラス思考、マイナス思考とは脳科学的にどのような仕組みになっているのか?そしてマイナス思考の人は、果たしてプラス思考になる事ができるのか?などの事がオックスフォード大学感情神経科学センターの教授により書かれている。

個人的に勉強になった事を以下に記していく。

①自身に起こる出来事には個人の性格が強く影響する。例えば、外交的な子供がずっと外交的に振る舞っていればその子を取り巻く世界は内向的な子の世界よりもポジティブなものとなる。子供がどんな社会に生きる事になるかは運や偶然ではなく、その子の感情のスタイルがその子を取り巻く世界を規定する。世界にどう向き合っていくかによって環境は変化し、どんなチャンスに、そしてどんな問題に遭遇するかも変化する。

②楽観主義の人は、ただ単に陽気でハッピーな考え方の人というわけではない。楽観的な気質とはいわば、「未来に希望を抱く事」だ。「この先、どんな事が起きても物事は必ず打開できる。自分ならば対処できる」という信念をもっているという事だ。能天気とは違う。

③一方で悲観主義の人は未来に不安や懸念を抱きがちで、「どこかに危険はないか」という事、「上手くいきそうなことよりも、上手くいかなそうな事」に注意を払って生きているというだけだ。別に、四六時中不安に苛まれているわけではない。

④無意識のバイアスが信念にも作用する。心の偏りによって人が物事をどう受け止めるかが大きく変わってくる。例えば、「女性は車の運転が下手だ」と信じて疑わない人は女性ドライバーの悪例を数多く目に留める事でその事実を確認しようとする。そのような人は逆に、運転が上手な女性ドライバーは気にも留めないし気付きにくい傾向にある。これを確証バイアスという。著者の友人は電磁波は身体に悪いと信じ、電磁波の悪影響にまつわる話のみに傾倒しすぎて思い込みで本当に心身にダメージを負ったそうだ。

➄クリフトン・メドア博士の体験した症例によると、どこも病気ではないのに「自分は病気だ」と強く信じたために、患者が本当に病気になったり、その病のために死んだというものがある。これをノーシーボ効果という。1996年のレベッカフェルガーの調べによると、肥満や高コレステロール、高血圧などのあらゆる心臓病の危険因子の要素を考慮した上で、「自分は心臓病にかかりやすい」と信じている女性はそうでない女性に比べて死亡率が4倍も高い事が解っている。

⑥刺激追及度が高い人は低い人に比べて脳内を循環するドーパミン値が高い。つまり、刺激を強く追求する人は快楽中枢の活動度が高く楽観を抱きやすいということ。刺激追求度の高い人と低い人に刺激的な画像を見せて脳の活動をスキャンするという、ケンタッキー大学のジェイン・ジョセフの実験が興味深い。これによると、刺激追求度が高い被験者の快楽中枢は刺激的な視覚情報によりオーバードライブ状態に陥り、感情を抑制したり統制する前頭前野の活動はほぼゼロになった。逆に刺激追求度が低い人は前頭前野が強く活性化した。要するに、刺激追求度が高い人は強い刺激を感受した際に自制が利きにくくなる可能性があるという事だ。

⑦ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソンによると、「何事にもへこたれない人間は、楽観的な思考とポジティブな感情を困難に対処する手段として用いている」という。これは、「ポジティブな感情はアイディアの幅を広げるのに役立ち、逆境を打開しやすくなる」という考えだ。

ポジティブな映画を見せたりお菓子をあげたりと明るく前向きでポジティブな刺激を与えたグループと、恐怖映画を見せられたグループ。「30分の自由時間があったら何をしたい?」という問いに対してはポジティブな刺激を得たグループの方が多くのアイディアを出す事ができた。

⑧「情動伝染」とは、自分の表情を他人の表情に本能的にシンクロさせる現象だ。2009年にデ・ゲルダ―の研究チームが、写真を見る事ができない被験者が感情的な表情の顔写真を提示された時に情動伝染の反応を示す事実を発見した。目が見えない被験者に微笑んでいる顔写真を見せると、意識上では見ていないはずなのに誘われるようにほんのわずかに笑ったそうだ。感情的なボディランゲージでもそうだ。恐怖を感じさせる写真を見せると、被験者は眉をひそめた。見えていない恐怖の映像はポジティブな映像よりも強い反応を引き起こした。これは恐怖が快楽よりも強い証拠だ。

⑨身を守るために恐怖反応を引き起こすのは偏桃体だ。偏桃体で得た恐怖反応を恐ろしいという意識、「恐怖感」に変換しているのは島皮質の役割。五感から得た恐怖の刺激が偏桃体に至るまでには、緊急性に応じて「低位の経路」と「高位の経路」がある。危険がすぐ目の前にある時は危険情報の伝達において一刻の遅れも許されないため低位の経路を通じて直接、危険情報が偏桃体に送られる。これは、「思考」という自分の判断が危機回避のための即時行動の妨げになる恐れがあるため、人が何かを考える間もなく偏桃体に即座にスイッチが入る仕組みとなっている。

一方、「高位の経路」の場合、視床に集まった危機に関する五感情報は偏桃体に向かう前に詳細な情報分析のために大脳皮質へと送られる。このルートは情報を高次で理性的な領域において綿密に調べることが可能となる。例えば、目の前の蛇は本物か偽物か、シチュエーションにより冷静に分析及び判断を下す。

⑩恐怖を司る回路全体にもアクセルとブレーキの両機能がある。偏桃体からくる恐怖反応という警報スイッチを大脳皮質のうちの前頭前野が抑制の働きをする。しかし大脳皮質でも恐怖反応を完全に遮断することはできない。人間は本来「幸せ」よりも「恐怖」に敏感な生き物だ。それもそのはずで、偏桃体から大脳皮質に向かう経路の数は、逆方向の経路よりもずっと多い。そのせいで偏桃体という原始的な組織が、もっとも高次な大脳皮質に対して過剰なほどに大きな影響力を及ぼす事ができるのだ。ひとたび恐怖のスイッチが入ると論理が遮断されてしまう。恐怖は、快楽を経験したり楽観的思考を育むのを邪魔するばかりではなく、もっと強大な恐怖や不安を引き起こし、人生から輝きを奪う可能性もある。

⑪一見、恐怖を引き起こす偏桃体は悪のようにも思えるが、日々の生活に潜む様々なリスクから心身と暮らしを守るのに必要な器官なのだ。ラルフ・アドルスのギャンブルを用いた実験と研究によると、偏桃体が損傷された人間は損失回避行動を取らなくなる傾向にあるという。潜在的利益と損失を完全に理解していて、損失が利益を上回る事が判り切っていたとしても賭けに出る事を止めない。リスク含みの行動のコントロールが機能していない事がわかった。

その他、ストップディスタンス法という向かいったお互いの快適な距離感を図るテストではこんな結果が出ている。通常の被験者の平均距離感は64センチ。ところが偏桃体が損傷した被験者の平均は対面の相手から僅か34センチの地点だった。偏桃体が損傷した被験者は、対面した人間との距離が近くても不快感をあまり感じていない。偏桃体が正常に機能していないと人は、物理的な危険だけでなく社会的な危険にも丸腰で晒されるということだ。偏桃体が作動させる警戒ブレーキがなければ人は何度でも懲りずに詐欺やペテンに引っかかり、身体も人生も危険に晒す事になる。

⑫コロンビア大学のティム・オーバーランダーの研究によると、妊娠後期3カ月の間に母親がうつや不安に悩まされていると、赤ん坊のDNAのメチル化が大きく進む事と、そうではない子供と比べて強いストレスを感じている事が解った。「DNAのメチル化」とは、RNAにメチル系化学物質が付着することで、メッセンジャーRNAが遺伝情報を正常に転写できなくなる状態。

グルココルチコイド遺伝子のプロモーター部分でメチル化が進むと海馬の中の遺伝子が発現しにくくなり本来以上にストレスに弱い子供が育つことになる。「グルココルチコイド」とは、ストレスを感じた時に脳が副腎に指令を送り副腎から出るホルモンの事。脳内で記憶や学習に関わる領域である海馬にはこのグルココルチコイドを受け止めるグルココルチコイド受容体が大量に存在している。

グルココルチコイド受容体はストレスに対する反応のオン、オフを切り替える事ができる。グルココルチコイド受容体が少ないとストレスに対する反応が増大し、問題をいつまでも抱えてくよくよ悩み、すみやかにそれを乗り越えられない。

グルーミングや子育てをしないなど、愛情が薄い母親から産まれたマウスはグルココルチコイド遺伝子のプロモーター部分のメチル化が高い。よって海馬においてのグルココルチコイド受容体の数も少なくなる。すなわち、「母親の愛情」が子供のストレス耐性、忍耐力に大きく影響を与えているという事。そしてその母になる女性に、安堵と平穏、幸せを与えるのに重要なポジションとなるのが配偶者である。

⑬オレゴン大学のヘレン・ネビル、アレクサンダー・スティーブらの研究によると人間の脳は、主たる感覚のどれかを失って使われなくなった領域のニューロンが他の役割のために働きだすことが解っている。目の見えない被験者にかすかな音を聴かせると、脳の血流は一気に脳の後方に集中した。ここは視覚野であるべき場所だ。そして音楽やスピーチに耳を傾けてもらうと、聴覚野が刺激されるだけでなく、本来は視覚刺激でのみ発火する脳細胞までもが活性化した。つまり音は目の見えない人の脳では2倍の力を持つということだ。この逆に、耳が不自由な方は、音の処理をする聴覚野の一部で視覚刺激への反応が起きている事が確認されている。

ここで少し音の話を。プロの音楽家と一般人とでは脳が少し違う。具体的にいうと音楽家は一般人と比べて、複雑な音を聴き分けたり精密な動きをしたりするのに関わる脳の複数の領域がはるかに大きいのだ。ここで重要なのは、それは「生まれつきそうではない」ということだ。努力と訓練で脳はある程度、必要に応じて変化させることができる。これを「脳の可塑性」という。

⑭意図的に片目が見えない状態で成長した猫の脳はその後どうなったか?という、カロリンスカ研究所のトルステン・ヴィーセルと、カナダ、オンタリオ州のデイビット・ヒューベルらによる、後にノーベル賞を取った実験がある。生後3~5週の幼い子猫の片側のまぶたを開けられないようにしてその方の目が完全に視覚情報を受け付けないようにした。生後6か月を迎えた時に閉じられた方の目が再び開かれたが、その目は完全に見えなくなっていた。生まれた時には、視覚情報を受け止める機能が正常に備わっていてもそこからさらに、「見る事を学ばなければ」視覚は発達しないのだ。脳皮質の本来の機能を使わずにいると、じきに失われる。しかし、通常の見えている方の目の視覚野は、使っていない皮質を再配線してフルでスペックを使っていたことも解った。それにより視覚野は通常よりずっと拡大することになったのだ。

⑮一度覚えた恐怖の記憶は消去されるわけではなく、新しい記憶に上書きされるだけ。然るべき学習により恐怖反応が起きないよう新たな情報が上書き保存されていたとしても、恐怖と状況の結びつきがあまりにも強い場面に出くわすとまた恐怖反応が出現してしまうことがある。

しかし、偏桃体の中にある「基底外側核」というごく小さい組織が傷を受けただけで恐怖学習に大きな支障が生じる可能性がある。ここを傷つけれられたラットは、電気ショックが流れて怖いという実験において恐怖反応がいっさい起こらなくなった。電気ショック自体への反応は完全に普通のままなのに、電気ショックに関連する音への恐怖反応がゼロになったのだ。

⑯認知バイアスは修正できる。ヘビードランカーは日常生活において常に酒の事に無意識的に集中している。例えば、バターを取りに冷蔵庫を開けた時には、真っ先に酒類に目がいってしまう。別に意識していなくてもだ。そして、バターではなくお酒を手に取り飲み始めてしまうのだ。アムステルダム大学のレイナウト・ヴィアーズがヘビードランカーを対象にした実験がある。これは、目の前に写真が現れて、手元のレバーを引いたり押したりすることで現れた画像を奥へ押しやったり手前に引き寄せたりすることができるというもの。ソフトドリンクの画像の時は、さして早くもなくレバーを引き寄せていた被験者たちだったが、画像がアルコール関連のものになるとレバーを引いて画像を引き寄せるスピードが段違いのものとなった。ここで、例えば縦長の画像が出たら手前に引き寄せて、横長の画像なら奥に押しやるというルールにする。その後、だましだましアルコール関連の画像を挟みながらそれらを奥に押しやるように仕向けるのだ。その結果、実生活でもアルコールを遠ざけるような傾向が見られた。これらのような断酒のための認知バイアス修正とカウンセリングを3カ月受けた被験者たち。その一年後、断酒に成功した被験者は64%だった。そうではない対照群の断酒成功率は41%だ。

また、上記したレバーの実験は興味深くて、お酒に全く執着がない人に対してわざとアルコール関連画像が出現した時に手前にレバーを引いて引き寄せるように指示すると、実験後の試飲テストで通常よりも大量のアルコールを摂取するようになった…。

この世の中には恐らく、我々の無意識の認知バイアスに訴えかける広告やサブリミナルなどが多く仕掛けられている。仮にそれらのテクニックや手法を全部知っていたとしても脳は抗えず、仕掛人たちの狙いに、そして術中にまんまと嵌っている恐れがある。いらないものを買わされ、興味を持たされ、それが当たり前で、健全で、むしろ否定的な方が異常であると言わんばかりに。そんなものがこの資本主義の世の中にはあふれているのだろう。様々なバイアスを取っ払い、自分の意志で行っている本当の「消費」は全決定、全消費、全決済中、一体何割くらいなのだろうかとふと思った…。

⑰悲惨な場面を見た時、それを意識的に解釈することで恐怖の反応は抑えられると、リチャード・ラザルスは研究の中で明らかにした。アボリジリニの割礼の儀式。これは僕自身、何か知らなかったが調べてみると相当に胸くそ悪い。この割礼儀式などの胸くそVTRを被験者に見せて恐怖反応を計測するわけだが、その前に「これはプロの俳優による迫真の演技である」「すべて偽物の小道具だ」「痛がっている演技をしているだけ」と伝えると、手の平の発汗と、心の動揺がそうでない群と比べて小さい事が解った。

⑱脳内では認識を通じて恐怖を抑制する試みが行われている。レイニーブレイン(いわゆるマイナス思考、偏桃体の活性)を抑制させるには「何かを考える事」が重要だ。心に浮かんだ考えや映像にラベルを貼るだけで前頭前野の抑制中枢を活性化させて偏桃体の反応を鎮める事ができる。

デューク大学の神経科学者アフマド・ハリーリーの研究を紹介する。

被験者に恐怖をあおる画像を二枚一組で見せて、関連性のある画像を選んでペアを作らせる。今度は「恐怖をあおる画像」と、それが「人工物」か「自然のもの」かを正しく選び、画像と言葉とでペアを作らせる。例えば「こちらを向いている銃」ならば「人工物」とペア。「大きな口を開けているサメ」ならば「自然の物」とペアという具合に。自然物か人工物かでラベル付けをするのだ。こうすることで、画像を感情的にではなく、言語的に解釈するようになる。結果は、前者のペアつくりの時には偏桃体が強く反応したが、後者のラベルつけの方は前頭前野が活性化してそれとともに偏桃体の反応が抑制された。

前頭前野と偏桃体の相互システムは、現在の状態を意識的に評価することによって感情をコントロールするのに役立っている。例えば、鎖に繋がれ大きな声で吠えている大きな犬がいるとしよう。偏桃体の警報のみに従った場合、この犬は危険で恐怖でしかないが、前頭前野の助けを借りて冷静に分析すれば、鎖に繋がっているので犬の動ける範囲内にいなければ安全、大きな声だけでは肉体は傷つかない、鎖が切れる可能性は極めて少ないなど理性で偏桃体の活性化を抑える事ができる。不安症やパニック障害、PTSDや抑うつ症などの様々な心の失調症は、「前頭前野と偏桃体」の相互作用システムが上手く機能していない事が原因であるといえる。上記のように、理詰めで偏桃体の活性化を抑えられればいいが、それが難しいならまずはラベル付けという単純作業が良い。自身がこれらの失調症の気があるならば、恐怖を想起する物事や感情を客観的に捉えてラベリングしてみることをお勧めする。

⑲強迫性障害の患者を悩ませるのは「何かが間違っているのではないか」という絶え間ない不安感だ。このような患者の脳内では、眼窩前頭皮質といわれる場所の過活動が認められている。脳のエラー探知機であるこの部分は、脳の前面の下側、ちょうど前頭前野の下あたりに位置していて、偏桃体とも回路で結ばれている。強迫性障害の人はこの眼窩前頭皮質と偏桃体の双方で活動が増して回路に機能障害が起き、それがなかなか改善しない状態となっている。

⑳恐怖を抑える前頭前野と恐怖反応を起こす偏桃体。これらを結ぶ「鈎状束」という神経線維の束がある。ダートマス大学のジャスティン・キムとポール・ホエーレンはfMRIを用いた研究で、不安を感じやすい人ほど偏桃体と前頭前野を結ぶ鈎状束が細くて弱く、不安をあまり感じない人は鈎状束が太くて強い事が解った。鈎状束が強ければ前頭前野から偏桃体へ瞬時にメッセージが届き、すみやかにパニック反応を抑えられる。

この鈎状束の強弱だが、生まれつきのものではない可能性が高いと本に記されている。トレーニングで筋肉を鍛えるのと同じで、適切なアプローチで鈎状束を強化できるだろう。ピアニストの脳、脳の可塑性の話を思い出してほしい。

㉑マインドフルネス法は、言うなれば客観的な目撃者として自分を見つめることだ。例えば瞑想中、怒りや心配事が頭をよぎった時、冷静にそれをラベルつけして頭から過ぎ去らせるのだ。難しくても回数を重ねて訓練をすればきっと出来るようになる。

日々の中で経験する悩みや心配事の大半は、外界で起きる出来事そのものに起因するのではなく、そうした出来事を自分がどう解釈するかで引き起こされる。仮に何かに怒りを感じたとしてもそれは所詮、形を持たぬものであり実体はないと思えばそれを受け流せて、上手に毒を抜くことができる。

㉒マインドフルネスを行うことで、感情のコントロールを助けるいくつかの領域が高密度になっている事がMRIの脳スキャンから解っている。「高密度」ということはニューロンが増加しているということだ。また、マインドフルネスを行っていくうちにストレスが大幅に減少したと答えた人々は、偏桃体の密度が低くなっていると同時に抑制中枢が大きくなっていることも解った。

㉓トロント大学の心理学者ステファン・コッテ、スタンダード大学のアネット・ギュラーク、カリフォルニア大学のボブ・レベンソンらの研究によると、感情調節がうまくできる人は大きな幸福を感じていたということ、そして不得手な人に比べて非常に高い収入を得ていたことが解った。

ビリヤード元王者であるスヌーカー曰く「成功の秘訣はとんでもない事が起きても、それがなんでもない事のようにプレイできることだ」。

㉔サニーブレインがもたらす心の弾性と楽観をささえるメカニズムには「人生の舵は自分が握っている」という感覚が非常に大切だ。

ペンシルベニア大学の心理学者であるマーティン・セリグマンとスティーブン・マイヤーは、実験で犬に絶対に逃げられない電気ショックを繰り返し与えると、「ある現象」が起こる事を見つけた。そしてこの現象は「学習性無力感」と名付けられた。

これは、まず犬を実験用の小屋に入れる。小屋の内部は低い敷居でAとB二つに分かれていて片方の床には時々、肉体に無害な電気が流れる。ときどき電気が流れる方をAとすると、敷居を飛び越えた隣のBには電気が流れていない。一部の犬にはその部屋に入れる前に逃れられない電気ショック(身体に害のない)を経験させる。そして二匹の犬をペアにして弱い電気ショックを双方に与える。片方の犬には鼻でスイッチを押すと電気が止まるというボタンを与えるが、もう片方にはボタンは与えるがスイッチを押しても電気が止まらないという仕掛けをする。ここでのポイントはどちらの犬も同じ回数の電気ショックを受けるが、片方の犬だけが状況を自分でコントロールできるという点だ。

実験用の小屋に移され、床に電気が流れた時に電気ショックを避けようとしてためらわずに低い敷居を飛び越えたのは、前の実験でコントロールを手にしていた犬たちだった。逆に、コントロールを与えられていなかった犬たちは、電気ショックから逃れようとすらしなかった。苦痛を逃れる術がすぐそこにあるのに、ただただその場にうずくまって痛みに耐えていたのだ。そして「自分で制御が効かない状況」というのは胃潰瘍などのストレスに関連した疾患にも繋がっていることも解った。

コントロールを手にした犬たちにはそのような抑うつ的な対処の仕方は全く認められず、実験で特にストレスを受けている様子も見受けられなかった。コントロールを与えられていた犬たちは、ストレスが起きた時にそれを跳ね返す強靭な心、いわば「心理的な免疫」が育っていたわけだ。

㉕この「心理的な免疫」の発達度だが、前頭前野の中で感情の統制に関わる部分がどれだけよく機能するかで大きく変わる。上記の実験のスティーブン・マイヤーとコロラド大学のホセ・アマットは、電気ショックのコントロールでストレスへの免疫をつけても、前頭前野のある領域を不活性化するとその免疫が完全に消えてしまうことを発見した。それすなわち、皮質下の領域を前頭前野の働きによってうまくコントロールすることが逆境に屈しない精神を育む重要な神経的メカニズムということだ。前頭前野のこの統制力を取り去ったらストレスに対する免疫は恐らく消失する。

これらの実験から分かる事は、状況を自分でコントロールできること、あるいはコントロールできると感じることは幸福度を左右する重要な要素だということだ。状況を僅かでも自分でコントロールできると信じれば対処しようという気持ちも起こりやすいし、自信も出てくるだろう。

さらに著者曰く、この「状況をコントロールできるという自覚、自信」が、必ずしも本当にコントロール出来てなかったとしても、すなわちそれが本人の思い込みだったとしても、実際にコントロール出来ている時と同等の大きな利益が得られることが複数の実験から明らかになってるそうだ。超プラス思考のマイケル・J・フォックス曰く、「どんな危機が起きたって、僕はちゃんと対処していける」。この自信はサニーブレイン(プラス思考)型の思考の重要な側面だ。

㉖幸福になるには、1ポジティブな感情や笑いを数多く経験すること。2生きる事に積極的に取り組む事。3今日、明日ではなく長期的な視野で人生に意義を見出す事が肝要。そして、より良い仕事、より良い家、より良い車などのいわゆる「より良い物、ステータス」は、高い幸福の継続にはつながらない事が科学的に明らかになっている。

それよりも人を幸福にするのは、自分にとって大きな意味のある何かに積極的に取り組む事だ。これこそが楽観主義者の本物の証だ。楽観主義者は大きな目標に向かって没頭したり、意義のある目標に到達するために努力を積み重ねる事ができる人々だ。

㉗クレアモント大学院の心理学者であるミハーイ・チクセントミハイは人が何かに没頭することを「最適経験」、もしくは「フロー」と呼ぶ。こうした経験をしている時、過去や未来についての意識は頭の中から消え、強烈な「今」という感覚だけが残る。「今この瞬間の自分」という圧倒的な感覚はスポーツ選手がいわゆる「ゾーンに入る」と呼ぶのと同じ状態だ。これは、精神と肉体が苦も無く一つになる魔法のような瞬間だ。

何らかの課題に取り組む時に「フロー」を経験するには、簡単すぎても難しすぎてもだめだ。挑戦者にまさにぴったりのレベルである時、他の一切が入り込むことができない一種のトランス状態が訪れるのだ。

㉘心理学者のバーバラ・フレドリクソン曰く、幸福になるにはネガティブ1に対してポジティブ3という黄金比率が大切だそうだ。ネガティブな出来事や感情を1つ経験したら3つのポジティブを探して味わうべきという考えだ。さらには、シアトルにあるゴットマン研究所のゴットマン博士曰く、夫婦で離婚にならないための黄金比率は、ネガティブ1に対してポジティブ5だそうだ。

さて、ここまで自分的にためになった事を色々書き出していったわけだが、このプラス思考マイナス思考には遺伝学、神経科学、心理学が密接に関わっている事が解った。そして、「脳の可塑性」はある程度認められているので仮にマイナス思考だったとしてもそれをプラス思考に変える事は可能なのだ。マイナス思考とプラス思考を比べると、確実にプラス思考の方が幸せに生きられる。脳の恐怖を感じる偏桃体の過剰活性を前頭前野が抑制させることができれば自ずと心が落ち着き冷静になれるし不安も和らぐ。そのためにはマインドフルネス、すなわち座禅がよいらしい。

この「座禅」に関してはこの本で科学的な根拠や研究が紹介されていて非常によいと思った。私事だが、今年は「般若心経」を独学だが少しずつ学んでいる。般若心経の解説書にはなかなか面白い事が書かれていて、この「脳科学は人格を変えられるか?」の書籍に書かれている科学的な側面と照らし合わせて考えると仏教の見識が一致している面も多々あって面白かった。

次回あたり、仏教に関して素人ながら「般若心経」についての本を読んで自分なりに為になった事を書けたら書こうと思う。