人は皆「人生」という名の富士山を登っている。

人生において、「もうだめかも」と思ってしまう時は誰だってあるだろう。

困難に直面した際、その困難の数や大きさ、自身の捌き方によって、ざっくり傷つく場合もあれば、難なく切り抜けられる場合もある。今回は、僕の富士山登頂時の経験を通じて「困難」との向き合い方について書いていこうと思う。

当時25歳の8月。一番、気力体力が充実していて、一年で一番熱い時期に富士山に登った。職場の人間と、何度も富士山を登ってるベテランの人間と3人で5合目から登った。賛否はあるが、山小屋に泊まらないで夕方から夜通し、頂上での「ご来光」を目指して登る、いわゆる「弾丸」で登頂したのだ。

最初は楽しかったが7合目くらいから空気が変わり、道の険しさが明らかに増した。エクササイズやピクニック感覚ではこの先は無理だと直感で分かった。

しかしその中でも、まず最初にやられたのが「臭い」だった。登頂するルートの至る所にトイレが設置されているのだが、排泄物の匂いが風に乗って運ばれてくる。気にならない人もいるだろうが、僕はそれがとても気になってきつかった。

次に、その臭いをなるべく嗅がないようにしようと口元をタオルで覆っていたら、酸素が足りなくなって8合目あたりから頭が痛くなってきた。いわゆる「高山病」だ。

臭いと頭痛と戦いながら登っているうちに今度は、急激な寒さに襲われた。頂上に近づくにつれてどんどん気温が下がってくる。9合目以上は真夏でも4℃か3℃くらいしかない。僕は、「におい」、「頭痛」、「寒さ」の、いうなればそこそこ強い三人の刺客に同時に苦しめられた。

9合目から頂上までなんとか根性で登り切ったが「辛い、キツい」しか言葉がでず、「もうだめだ、無理だ」と本気で思った。頂上に着いてからは寒さと頭痛に耐えながら死んだように眠った(笑)。当然、「ご来光」など見てもいない。

午前10時ころ、暖かさと疲労の回復、身体の環境への順応を感じて目が覚めた。

富士山の山頂は十分に日が昇るまではかなり寒い。もしかしたらもう少し日の出が遅かったり、悪天候だったならば、低体温で本当に眠りながら死んでいたかもしれない。

目覚めてからは元気に下山して無事に帰宅したが「富士山登頂」は、かなりしんどい経験として僕の脳裏に刻みこまれた。

では、どうすれば楽に登頂ができたかを考えると、①防寒対策、②数カ月前からの体の準備、③十分に休息を取り弾丸では登らない、などが思いつく。

僕は青森県出身で、寒さには自信があった。冬時期、-5度でも薄着で歩いていたくらい寒さには自信がある。なので、富士山の寒さを舐めていた節がないわけでもなかった。要はその「見積もりの甘さ」と「情報不足」、「準備不足」が全ての敗因だ。

ダウンジャケットの準備をするだけでも「寒さ」という名の敵に打ち勝つことができただろう。

では、高山病による頭痛はどうだろうか。登頂時は頭痛に悪戦苦闘したが、山頂で眠り、目覚めたらその場の環境に順応していて全く頭痛が起こらなかったことを考えると、登頂途中で十分な休息、もしくは山小屋で仮眠をとるなどをする事で頭痛が起こりにくくなる可能性は充分にある。これで「頭痛」という名の敵にも負ける事はないだろう。

最後の「におい」という最大の敵は、…まあ最悪、我慢すればよい。

ここで重要なのは、「寒さだけ」なら耐えられる。「臭いだけ」なら耐えられる。「頭痛だけ」ならなんとか耐えられるという事だ。二つの敵を潰してしまえば、残り一つの敵はなんとかなる。耐えられるのだ。

例えそこそこ強い困難だとしても、それが単体ならば耐えて追い払うくらいの忍耐力や強さは今までの人生で培っている。ところが、二つ、もしくは三つ巴で困難に見舞われるとうまく対処ができずにダメージを負う。さらにそれが長期化すると、癒えない傷を心身共に負う事になりかねないし、場合にはよっては再起不能、最悪「死」にも繋がるだろう。

人生も同じではないだろうか。小、中、高、大などの学生生活、部活動、社会生活、集団行動、家庭などである程度の困難を誰しもが経験する。そのおかげで上記の通り、そこそこ強い困難を乗り越える「力」をある程度は皆が持っているはずだ。

「人生」というの名の富士山登頂において、様々な困難が降りかかる。「老後問題」や「子育て」、「病気」、「親の介護」、「住宅ローン」、「税金」、「金銭問題」、「あらゆるトラブル」など。人によっては全然気にならないものもあれば、身内や他人の手助けにより難なくクリアできるものもあるだろう。

重要なのは、事前にどのような困難が降りかかってくるかを予測して、潰せるものは事前に潰しておく事だ。僕の富士山登頂時のように、「寒さ」という困難に対しては「ダウンジャケットの用意と着用」というたったこれだけで潰せる困難もある。

困難が一つか二つならなんとか対処できるし耐えられる。でも、直接相手にする困難はなるべく一つに絞った方がよい。同時に複数の困難を相手にすることは避けた方が良い。身が持たない。なので敵を絞って、困難が降りかかる時期をずらせるならずらして一つの困難に対して、一対一で相手をして確実に仕留める事が肝要だ。

そして、困難を見くびってはいけない。甘くみていると、一気に瀕死の状態まで追い込まれることもある(山頂での僕のように…)。

今、生きる事が毎日きつくて辛くて、倒れ込んでしまいそうな方がもしいたら、今一度ご自身が抱えている「困難」をリストアップして整理してみる事をお勧めする。もしかしたらその中で、割と簡単に追い払える単純な困難もあるかもしれない。敵は少ない方が良い。困難が一つだけならばきっと負けない。打ち勝つだけの力が、知力が、忍耐力が、あなたには備わっているはずだ。きっと現状を打破できる。