5月と学校事故。「内受容感覚」を通じて己の声を聞く。

先日NHKの番組で、学校内で起きる事故についての特集が放映されていた。学校事故にはいくつか特徴がある。起きる事故のその多くは毎回同じようなものばかりで、それは今も昔も変わっていないそうだ。そして、特に「5月」に学校事故が多いという。

特に多い学校事故の具体的な内容を列挙する。

①窓が開いているのに気づかず窓枠に腰をかけていて誤って落ちてしまう転落事故。

②サッカーのゴールポストにぶら下がっていたら倒れて下敷きになったという外傷。

③組体操やムカデ競争などでの事故や怪我。

④給食にて白玉やうずらの卵の誤飲による窒息。

➄体育や部活動での熱中症、心停止、頭部外傷。

専門家が言っていたが、これらの事故は今も昔も同じ内容であり、いうなればテンプレート事故であると。「事故後の是正」がしっかり行われていない事がテンプレート事故の原因であるそうだ。

勿論、番組では学校側の対策法がいくつも紹介されていた。

例えば、ゴールポストが倒れないように固定するとか、生徒が落ちないように窓の開閉を工夫するとか。これらは実際にきちんと対処すれば、よっぽどのことがない限りその事故に関してはゼロに出来るだろう。

ただ、「➄体育や部活動での熱中症、心停止」に関しては、「新しい認識」を正しい知識として国、学校、親、生徒自身など皆が共有しないとなかなかなくならないのではないかと僕個人は感じた。

極端な事をいうと、小児や青壮年は年配者と比べると若く、血管や身体、関節などが柔軟で耐久性があり、心肺機能も円滑に働いている。よって、多少無理をしても、キツイ追い込みをかけても肉体的には大丈夫であり、それで死ぬことはまずないと一般的にも考えられている節がないだろうか?年配の指導者やその他の成人の方々も、「自分もそうだったからあなた達もそうするべきだ」とか、「自分の時はもっと大変だったけど耐えられた。なのであなた達も大丈夫」みたいな認識がないだろうか?

このような認識をまるで信仰のように信じて疑わず、「若いうちは無茶しても大丈夫」が、万人に共通し、いつの世にも不変なものと捉えていると重大な事故に繋がる恐れがあるのだ。

若くても、身体と自律神経が整ってない時に無理やり強い負荷を掛けるとバイタルに異常を来たし、時として重篤な後遺症、そして最悪な場合は死を招く。

冒頭で学校事故が「5月」に起きやすいというデータが出ていると書いた。「5月」という月は季節の変わり目で、急に気温が高くなる。最近では30度近くの夏日になることもあるかと思えば、暖房を入れるほど冷える日もあるし、エアコンの室外機やアスファルトの照り返しなど一昔前の外気温や体感温度とは異なる。これが自律神経に強く影響する。さらに4月、5月は引っ越しや入学、進級、卒業と、新しい環境に身を置いてまだまもない。生活に変化があるライフイベントの前後で人は、何らかの不定愁訴が出たり体調を崩しやすい傾向にある。そして、新しい環境になって少ーしだけ慣れたところでゴールデンウイークがある。連休後の通学や通勤は心理的に参る…。気持ちが滅入るとより自律神経にも悪い影響を与えやすい。そんなこんなで5月は特殊な月といえる。

NHKの取材によると、5月に頻発する学校事故は、連休明けの次の日か、その次の日に多い。

これは、暫く激しい運動をしていない日々が続いていた状態から、いきなり強い負荷を身体にかける事が問題と説明されていた。循環器系に多大な負荷がかかり最悪の場合、心肺停止となる可能性がある。急激な激しい運動は発汗による脱水を強く促し熱中症のリスクも当然上がる。今では認識が改められているが、昔の体育会のように「水を飲むな。渇きを根性で耐えろ」なんてやったもんでは熱中症を悪化させ、腎不全をはじめとする種々の内臓機能異常などの重篤な後遺症が起きる確率も当然高まる。

外気温と体感温度、不快指数などを可視化して考慮しつつ、休み明けの体育や部活の内容はほどほどのものにしなければいけないし、連休明けに「持久走」とかのメニューは体育で行わないほうがいいらしい。「連休ボケを解消するためにいつもの倍走れ」などの練習メニューや発破かけは言語同断なのである。

休暇明けの次の日はいつもの三分の一くらいの練習量と負荷、次の次の日は二分の一くらいと少しずつ慣らしていくのが良いそうだ。

これに関してはアメリカも同じで、長期休暇明けの次の日とその次の日に高校生のアメフト部の死亡事故が多いというデータが出ている。

アメリカではそれを防ぐために、練習にアスレチックトレーナーを入れて、各専門家による州独自のメニューを考案して事故防止に努めているそうだ。

アスレチックトレーナーはアメリカでは医師に準じた国家資格をもっている。そのため、体調不良の生徒に対しては迅速に対応できる。アメリカでは6割の高校でアスレチックトレーナーを導入している。

その他、熱中症対策として氷水で体を冷やすアイスバス、深部体温を測る特殊な体温計などの設備も充実している。

日本においては、大量にお金がかかる事はいきなり実施するのは難しいかもしれないが、運動の現場における危険物の排除とメンテナンス、気温や湿度などの危険な体感温度の可視化と警告、指導者への最新の正しい身体知識の教授、リスク管理を徹底した理想的な運動メニューの構築くらいならばなんとか可能なのではないか…。もうすでにやられている事も多くあると思うが、学生さん達の死亡事故と後遺症は絶対にゼロにしてほしいと心から願う…。

さて、皆様は「内受容感覚」という人体の能力のことを知っているだろうか?

内受容感覚とは、自分の体の中で「今、何が起きているか」をある程度正確に知る能力の事だ。例えば一分間の脈拍を手を当てず自分の感覚で計ってみて、実際の拍数との誤差を見る。その二つにかなりの乖離がみられるならば、内受容感覚が低いということだ。内受容感覚が低いと身体内部の変化に鈍感なので当然、無理をしがちになるしあらゆる慢性病になりやすい。「本当にもうやめてくれ!やばいって!」と身体は言っているのに「まだ大丈夫。もう少し」と身体に負荷を掛け続けると、場合によっては最悪の転帰を迎える事になるのだ。

内受容感覚の高め方は、空で数えた脈拍と実際の脈拍との誤差をなるべく少なくする訓練をすることだ。あとは、瞬間的に目の前の人が笑ったらつられて自然と自分も笑顔になるという「共感力」を高めるのも一つだ。

内受容感覚を高めて己の内なる声に耳を傾けることが上手くできれば「極端な無理」をしなくなり、本当にやばい状態になる数歩手前から自身をモニタリングできるだろう。身体を鍛える鍛錬やスポーツ競技を行うにあたって、限界近くまで自分を追い込むことで己を高めるというストイックさも時には必要だが、身体を壊してしまっては元も子もない。自分のスペックを理解した上で、ちゃんと無理な時はストップをかけて体のケアを優先することも一つの修業だ。

参考文献

“データの活用”でスポーツ事故防止に取り組むアメリカ 子どもの命を守るには(NHKスペシャル「いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”」)

“3つのH”に気をつけて!スポーツ中の事故 防ぐには(NHKスペシャル「いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”」)

学校での事故を防ぐ 日本に必要なものは? 専門家と遺族の提言(NHKスペシャル「いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”」)

【解説】繰り返される“学校事故”を防ぐには 専門家が警鐘を鳴らす事故の共通点(NHKスペシャル「いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”」)

いのちを守る学校に 調査報告“学校事故” – NHKスペシャル – NHK