繊細さん。「HSP」不定愁訴と「脳」と「酒」。

HSPとは、Highly Sensitive Personの略で、「繊細でストレスを感じやすい気質の持ち主」のことをいう。

アメリカ心理学者のエレン・アーロン博士によると、これは病気ではなく生まれ持った気質であり、5人に1人がHSPであるらしい。

HSPは「DOSE」ともいわれ、四つの特徴がある。

①物事を深堀しやすい。「Depth of processing」

分析、探求においては長所となるが、考えすぎて心配しすぎたり結論を先延ばしにするというデメリットもある。

②刺激を過剰に受けやすい。「Over stimulation」

感覚が研ぎ澄まされていているので特定の分野では抜群に力を発揮するだろう。しかし、刺激が多い場所では神経が昂り疲れてしまう。

③小さな刺激や変化に敏感。「Sensing the subtle」

人が気付かないような変化や刺激に気付きやすく先を読んだ動きが出来る。しかし、小さな刺激が気になって作業に集中できないとか、他人のしぐさや言動を否定的に受け止めやすいという面もある。

④共感しやすい。「Emotional reactivity and Empathy」

他人の喜びや悲しみを自分の事のように捉える事が出来る。そのため強く、悲しみや怒りを感じたり、自分の事より他人を優先してしまって自らの心の不安定さを招く事もある。

HSPのセルフテストを書いておく。以下の項目で12個以上当てはまるようならHSPの可能性が高い。

1 周囲の些細なことによく気が付く。

2 他人の機嫌に影響される。

3 痛みにとても敏感だ。

4 忙しい日はプライバシーが保たれて刺激のない、ベッドや暗い部屋に引きこもりたくなる。

5 カフェインに対して敏感だ。

6 まぶしい光、強いにおい、粗い生地、近くのサイレンなどにすぐ反応する。

7 豊かで複雑な内面世界を持っている。

8 大きな音が苦手だ。

9 芸術や音楽に強く心を揺さぶられる。

10 良心的だ。

11 すぐにおどろく。

12 短時間でやることがたくさんあると混乱する。

13 誰かが居心地悪そうにしているとそれを察して心地よくしてあげようと思う事が多い。

14 一度に沢山のことをやるように言われると混乱する。

15 失敗や忘れ物をしないようにとても気を付けている。

16 暴力的な映画やドラマは普段から見ないようにしている。

17 周囲で色々な事が起きると動揺してしまう。

18 極度の空腹によって強い反応が引き起こされ集中力や気分がそがれる。

19 環境の変化に動揺する。

20 繊細な、良質な匂い、味、音、芸術作品を堪能する。

21 動揺や混乱を引き起こすような状況を極力さけて生活している。

22 仕事で誰かと競ったり評価されたりすると普段より緊張して動揺する。

23 子供の頃、親や教師から繊細あるいは内気だと言われたことがある。

さあ、いかがだろうか。ちなみに僕は余裕で12個以上当てはまる(笑)

だからといってどうとも思わない。むしろ、人様の痛みや不安に向き合う臨床の仕事をするにあたってこれくらい繊細でないと務まらないのではないかとすら思う。

しかし、この繊細さが悪く働いて身体が疲れてしまったりなど、何らかの身体表現性の症状いわゆる不定愁訴が出てしまうようならいけない。

何かしらの刺激を受けた際、人間は無意識のうちにその刺激を脳内で処理している。音や光、文字、思考、記憶、誰かの言動など。「あれは何だったのだろう…まあいいか」というような、一度疑問に思ってその後忘れたと思っている事でも脳内では絶え間なく処理が行われている。

「あの時ああしておけば今ごろどうなっていただろうか…」「あの時のあれはどういう意味だったのか…」「さっきの音はいったい何だったのだろう」みたいなことは複数同時に脳内で処理が行われている。本人は一切意識していなくても脳はそれらの情報の処理にワーキングメモリを使っている。

これがずっと続いていると脳が疲れる。この状態にプラスして、例えば人と話す際に過度な気の遣い方をするとしよう。その場にいる複数人の職業や出身国、地域、風土、宗教、性別、趣味などに配慮して地雷を踏まぬように、さらに室内空間にも配慮して全員が寒くないように熱くないように、エアコンの風の向き、流れているテレビのCMの内容やニュースの話題がセンシティブでないか、音がうるさくないか、不快に思わないように、Aさんに対しての会話が少し離れたBさんの耳ん入った際にどう思うか、Cさんは今機嫌が悪くないか、Dさんはこの室内環境が苦しくないだろうかなど。そしてさらに神経を使う仕事をしながらそれらを考えているとどうなるかというと、キャパシティーオーバーとなる。脳が一度に様々な事を処理しきれずエラーを起こすのだ。そのエラーにより体表に出る症状は人によって違う。汗が出たり、言葉がつまったり、パニックになったり、叫んだり、お腹が痛くなったり、痒くなったり、震えたり、動悸がしたり、吐き気がしたりなど。基本的には自律神経失調症状がでる。

言い換えると、脳のタスクが多すぎて一度にメモリ以上の働きをすると自律神経が乱れるのだ。恐らく、すべてのタスクが上手く処理されなくて実行に移せず、思い描いた動きが出来なかった自分の姿に対して恥ずかしいという感情や、悪い驚きの感情が生まれてる。「恥ずかしさ」もしくは「理想の自分と現実の自分とのギャップ」によりショックを受けて自律神経が乱れている可能性がある。HSPの方以外でも、あらゆる不定愁訴の根本原因はここの心理的要因が大きく関わっているケースも少なからずあると思う。

その場合、お酒が飲めるならば仕事ではない時に誰かとお酒を飲んで自分の無意識の振る舞いを一度試してみるとよい。本当ならば軽くお酒を飲んで仕事をするのが一番効果測定になると思うが…多くの場合それは無理だろう(笑)お酒が入る事で恐らく不定愁訴、自律神経失調症状は消失、もしくは減弱するはずだ。

その理由は、お酒を飲むと脳の働きが鈍るため、軽い飲酒で大脳皮質のスペックをあえて少し落とす事が狙いだ。

アルコールは血液に溶けこみ全身に廻る。当たり前だが脳にも廻る。少量の飲酒では脳の表面の大脳皮質を麻痺させ、大量の飲酒は脳の奥にある大脳辺縁系までも麻痺させる。記憶を司る「海馬」は大脳辺縁系にある。お酒を飲みすぎて記憶がないという方はアルコールが大脳辺縁系まで深く到達してる事を示している。

大脳皮質はあらゆる感覚、五感を受け止めて処理する働きがある。その中でも特に大脳の前頭葉は「欲」を制御する働きがある。人間は、寒い熱いだるい休みたいなどの「原始的欲求」と、集団生活から弾かれないようにきちんとしなくてはいけないという「理性」との戦いなのだ。原始的欲求は大脳辺縁系(脳の奥の古い部分)が、理性は大脳皮質(脳の表面の新しい部分)が司っている。普段は原始的欲求が暴走しないように理性で抑え、社会から逸脱しないように空気を読んで生活しているが、アルコールが入る事でこの「理性」と「空気を読む」力が少し弱まる。そうなると、相手の事や空間の事など些細な変化や事象に気付きにくくなる。いい意味で「鈍感」、「気の利かない奴」になる。普段過剰に気を利かせているならば、少しくらい気の利かないくらいの方がちょうどいい事もある。

自分がHSPかもしれないという方や、普段気を遣い過ぎて疲れるという方の中で、上司とお酒を飲んだ時にこんなことを言われたことはないだろうか?「いいねぇ。普段からこれくらいフランクでいてくれた方がいいんだけど」とか、「あなたはお酒が入ると調子がいいね」などと。これは皮肉ではなく、その上司がいうように本当にそのくらいでいいのだ。

実際にお酒を飲んで仕事をするわけにはいかないだろうから、でも、もしもお酒を飲んだ時に上記のように不定愁訴が治まるようならば大脳皮質の過剰な働きが原因と考えられる。オフの時にお酒を飲んで軽く「理性」と「空気を読む力」を麻痺させ、いい塩梅の感覚を掴めるように、同僚や上司、友達に協力してもらって練習するとよい。

あと、一日に必ず何回かは「何も見ない、何も考えない、完全に一人の時間を作る事」が大切だ。休み時間だからといってスマホを見ると脳が休まらない。脳が抱えているタスクを脳に整理させる時間を与えるために、なるべく刺激のない空間と時間を設ける事が肝要だ。

本来、理性が強く働いてしまうという方は、責任感が強く真面目なのだ。当然、絶対に間違う事ができない仕事や場面は確かにある。でも、人間性や性格に関しては完璧である必要はないだろう。集団生活である社会から弾かれない程度のモラルがあればよいのだ。

この記事が、繊細さで悩んでいる方の一助になれば幸いだ。