眼瞼痙攣、耳針、漢方、ボツリヌスについて。

目がぴくぴく勝手に動く事を眼瞼痙攣という。これは局所性ジストニア。※ジストニアとは意志に寄らず、自分では制御できない運動の事。比較的長い筋肉の収縮により生じる。ジストニアは身体の様々な部位でみられる。斜頸、顔面けいれん、書痙などがそれにあたる。

眼瞼痙攣は、大脳基底核の運動ループの筋を収縮させる直接路とその周囲の筋を抑制する間接路のバランスの破綻が原因と想定されている。※大脳基底核とは大脳皮質と視床、脳幹を結び付けている神経核の集まりで、線条体、淡蒼球、黒質、視床下核からなる。運動調節、認知機能、感情、動機付けや学習などを担う部分。

治療法としては、ボツリヌス注射、手術、薬物療法などがある。まれに鍼灸や耳鍼により症状が改善したという症例もある。

ボツリヌス注射というのは、ボツリヌス毒素を局所的に筋肉注射して痙攣している筋を麻痺させて筋収縮を押えるというもの。その作用機序は、ボツリヌス毒素が筋注後に神経筋接合部の神経終末に選択的に取り込まれて前シナプスからのアセチルコリン放出を阻害する。このブロックは不可逆的で障害を受けた神経終末は求心性に脱神経を生じて筋肉の麻痺がおこる。この作用により脱神経を起こした筋が近接神経分枝より再支配されるまでの期間、効果が持続する。これの副作用としては、頭痛、閉眼不全、閉瞼不全、眼瞼下垂、複視、霧視、羞視、流涙など。しかしこれらは一週間以内に改善する。その他、血液検査、尿検査も以上なし。

薬物療法として、柴胡加竜骨牡蠣湯が功を成したという症例もある。柴胡加竜骨牡蠣湯は、肝胆の熱が心に移り、心身不安となった状態などに対して精神安定作用があるとされている。あと、てんかんの治療にも使われる。これはBPSDへの有効性があり、中枢神経系に作用すると考えられている。※BPSDとは認知症の中核症状の事。記憶障害、見当識障害、判断力の低下など。

あと、芍薬甘草湯という漢方がある。芍薬の主成分であるペオニフリンには筋細胞内のカルシウムの遊離を促進し、筋収縮を抑制する作用がある。甘草は、主成分であるグリチルリチンには筋細胞膜のカリウム透過性を抑制して筋収縮を抑制する作用がある。筋収縮を抑制するから眼瞼痙攣に有効な場合もあるが、芍薬甘草湯はあくまで筋肉に作用する。中枢神経系には作用しない。なので効果は不十分と見る場合もある。

文献にあった眼瞼痙攣に対する耳鍼の症例も載せておく。

59歳の女性の方で3年前からの眼瞼痙攣に対して、面頬部、皮質下、太陽、神門、肝の部位に耳鍼。一回のみで翌日から痙攣が止まった模様。その後三回継続して治療を行い、3か月後も再発なし。

実際に自分が施術したわけではないから何とも言えないが、たった一回で治ったのは凄い。耳鍼で効果が出たという事は、眼瞼痙攣は大脳基底核の運動ループのトラブル以外にも自律神経的な何かが関係している可能性もあると思う。耳針は副交感神経を抑制する効果が見込める治療法である。全部は治せないだろうど、薬物を使わず治せるならばそれに越したことはないだろう。

<b>柴胡加竜骨牡蠣湯が奏効した眼瞼痙攣の1例 </b> (jst.go.jp)

ボツリヌス毒素による眼瞼痙攣の治療経験 (jst.go.jp)

耳針による治験例(1) (jst.go.jp)

より抜粋。

#耳針 #眼瞼痙攣 #ボツリヌス #芍薬甘草湯