顎関節症に鍼施術が著効を示した症例。

70代男性、2~3年前より開口時の顎関節部にクリック音と共に違和感、痛みを時折感じていた。歯科にて、マウスピースを作成、就寝時に装着して生活していたが改善せず。

その後、症状がなるべく出ないように気を付けながら生活するもここ最近症状が強く出ていた。

顎専門と謳う整体にも行ったが改善せず当院を受診。顎専門の整体とやらでは、マッサージと顎の調整なるものを受け、自宅でも顎回りのマッサージをするように指示されたそうだ。

僕が思うに、この時点で効果がないという事は「マッサージ」では意味がない可能性が高いという事だ。当院にて以前も、顎関節症と歯科で診断されて施術により症状が改善したという症例を僕は経験している。電気治療、筋膜リリース、首の筋硬結の緩和、局所の鍼など、症状が治まる決め手はその状態により異なる場合がある。

顎関節症の原因は、関節部の軟骨である関節円盤が痛んでいたり、場所が悪かったり、心因性だったり、原因不明だったりと様々ある。その中で、関節部の筋肉や筋膜などの軟部組織がガチガチに硬くなって柔軟性が失われていて、そのせいで顎関節の動きがスムーズに行われずに、無理やり動かしているうちにどこかが痛み、症状発症につながるケースは多い。その証拠に、顎の違和感を訴える方は総じて顎関節周辺の筋肉が非常に硬くなっている。

その硬い部分の奥を鍼で緩めるのだ。表層、深層どちらにもファシアがある。ファシアとは、皮膚、筋肉、脂肪組織、骨などの様々な組織同士を結びつける接着剤、ガムのようなものだ。以前は「筋膜」とも言われていたが、研究により筋肉以外の軟部組織にも付着してる事が解った。

表面のファシアや筋肉であればマッサージでも刺激が届くだろうが、深部の筋肉や深層のファシアまでは手技では届かない。鍼であれば表層、深層両方にアプローチができる。

触診により一番硬い咬筋の硬結部に鍼を打った。この場合は直径0.12ミリの鍼を使用した。周りのやや硬い筋や、その他咬合に関する筋には直径0.10ミリの鍼を使用した。東洋医学的に顎関節と関わりのある大腸経、胃経の急所にも鍼を打ったりしたが、この場合はあまり効果的ではなかった。局所の鍼がとても良く効いたようだ。硬結部の深部の筋に「響き」を与えて、結合組織、軟部組織を緩ませて血流促進を図り、ファシアに寄ったシワを伸ばすが如く刺激を加えて層と層の間の滑走を改善させる。それらにより約12時間後、恐る恐る大きく開口したところ、いつも気になるクリック感、痛み、違和感は大幅に改善されたそうだ。そこから続けて2週間で計3回施術をしたが、2回目でほぼ症状はなくなっていたそうだ。その効果は今のところ1か月近くは持続している。

この後の生活でも半永続的に症状が出なければいいが、もしかしたらまた顎関節周辺の組織が硬くなると症状が出てしまうかもしれない。しかし、その原因が顎関節周辺組織の硬さと動きの悪さにあるならば、今回と同じように鍼で深部の組織を緩める事で動きがスムーズになり、症状はまた治まるはずだ。